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借りていたベストセラー小説を返却し、図書館を後にした。時刻は夕方六時になろうとしていた。正面にヤンキー風の外観の十代半ばぐらいの少女が見えた。少女は肩を怒らせながら、がに股でのし歩いて接近してくる。少女は首にヌンチャクをぶら下げていた。あまりお近づきになりたいようなタイプではない。どうやらそう思うのはみんな一緒らしい。モーゼの十戒のように人の波が左右に分かれ、ヤンキー少女の通り道が真っ直ぐに出来上がった。ヤンキー少女は私とすれ違いながら、ギロギロとした挑戦的な目で睨んできた。どうやらヤンキー少女は、日サロ焼けして金髪頭にサングラスで人相を隠した私を、自分自身とまったく同じ価値観に生きるライバルと勘違いしているらしい。 「てめえ、ちょっと待てや」 スレ違ってから三秒もしないうちに、背後からキンキンした女の罵声。私は立ち止まって振り向いた。 ヤンキー少女は白眼がちの肉食獣のような目を光らせながら私を睨んで戦闘態勢をとっていた。 「他人にガンつけといて挨拶なしかい」 ヤンキー少女は偽アルマーニのジャージの上下で武装したガリガリの身体を跳躍させながら、ヌンチャクを振り回し始めた。 「根性みせてやる。死ねえ!」 ヤンキー少女が雄叫びと共に突進してくる。彼女はどう見ても未成年だ。私を殺して少年院に入り、自らの類い稀なる根性を世間に対して猛烈にアピールしたいのだろう。未成年は根性少年法で手厚く保護されている。だからその気になれば殺人のし放題だ。矯正施設で何年間か規則正しい毎日を過ごした後は、大手をふってシャバに戻って来れる。矯正施設帰りは不良の世界ではリスペクトされ放題だ。何の落ち度もない被害者は、まさに殺され損としか言いようがない。 私は逃げるしかなかった。 「待てやデカ乳野郎。ぶっ殺したらあ!」 待てやと言われて待っているほど私は暇ではないし、ヌンチャクで頭をかち割られるのも気乗りしない。私は逃げた。 背後からヤンキーが追ってくる。ヌンチャクが空を切る音が不気味だった。 走りながら振り返ってみた。追手のヤンキーの人数が増えていた。金髪をお団子にした肥満女。筋肉質の逞しい逆三角形ボディーにキャミソールをまとった男か女かよく分からない女。それにさっきの偽アルマーニのジャージのヌンチャク女。三人の手強そうな不良女が、殺意をみなぎらせて私を追ってくる。
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