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「なんでも好きなもの、頼んでくださいね! これくらいならわたし、全然だいじょうぶなので!」
ファミリーレストランのメニューを広げてにこにこと笑う少女に、いずなは半開きにしたような目で「へえ?」と答えた。
いずなとしてはこんな平凡極まりないファミレスなんぞで飲み食いしたいメニューなどなかったが、田舎から出てきたばかりの彼女にとっては物珍しいものらしい。
いまどきファミレスもないとはいったいどこの限界集落からおいでなすったのだろう、といずなはそっちに興味をそそられた。
時間をかけてメニューの中からバナナチョコパフェとドリンクバーを選び出した彼女に、いずなは核心から話を切り出した。
退屈嫌いのいずなは当然のように、気の長い人間ではないのだ。
「で、困りごとって一言で言うとなんなの? 僕にどうにかできること?」
さっそくドリンクバーで取ってきた甘ったるいジュースを口に含み、彼女は突拍子もないことを言い始めた。
「あの、わたし、アイドルになりたいんです! それで、どうしたらいいか全然分からないので、お兄さんにアドバイスもらいたくって」
「ええー」
さすがのいずなが目を丸くして、頬杖をつくのをやめて目の前の少女をまじまじと見つめた。
「だってさっきかわいいとかいっぱい言ってくれたし。どうですか、わたし、アイドルさんになれませんかねえ?」
いやいやなれるわけがねーだろ。と口の先まで出かかって、いずなは変に酸っぱいドリンクバーのコーヒーでその言葉を喉の奥に戻しにかかった。
「あっ、いや、その。どうだろうか」
なんかもう最近の女の子ってすごいんだね。
アイドルになりたい、なんて僕が子どもの頃にはほんとにかわいい女の子しか言っちゃいけなくて、ちょっとアレな子がそんなこと言おうもんなら石投げられかねない感じだったけど、そうか最近はこの程度の子が言ってもいい世の中になったわけかあ。
うわあなんだかジェネレーションギャップ感じちゃうわあ。
などといずなの頭の中に自分の台詞が響き渡る。
「うんまあ最近はアイドルグループも四、五十人組とかみたいだし昔に比べたら当選確率は格段にアップしていそうだよね。君、いまいくつなの?」
適当にあしらうつもりでそう訊いたら、女の子はにこにこ顔のまんまでてらいなく答えた。
「十八ですね! 高校卒業したばかりなので」
「あ、そうなんだ、へえ」
それってどうなの?
十八からアイドルを目指すのって、間に合う話なの?
といずなは考え込んだ。
アイドルになんてほとんど興味がないからよく知らないけれど、あの子たちって確か中学とか高校に通いながら芸能活動しているようなイメージがある。
もちろん例外はあるんだろうが、十八歳で田舎から出て来てほいほいアイドルになれるというほど、甘い業界には見えないんだが。
それもこの子は抜群のスタイルだとか誰もが振り向く美少女とも思えないし。
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