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story02・こんなんだから男ができない
結局今日もスペシャルカレーを平らげてしまった。荒木が言うように「豪快」とまではいかなくても、それに近い食べっぷりで。
でも最後のほうは無理やりだった。エビピラフがやっぱり少し、しょっぱかった。
食堂を出る時だった。岸田がうーん、と伸びをしながら告げてくる。
「カヌー部、今度の土日にキャンプ行くらしいよ」
「あ、そうなんだ。それで」
その打ち合わせで荒木は笹井さんに呼ばれたのか。
そうかそうかとひとりごち、ずれていたカバンの肩紐をもどす。
荒木と笹井さんはカヌー部に所属している。部といっても大会に参加するほど熱心な活動はしていないらしい。月に二回活動があればいいほうだとか。
車でならわりとすぐの塘路湖でぷかぷか浮かんだり、釧路川をゆっくり下ったり。
あれは遊び部だ。と誰かが皮肉っていたのを聞いたこともある。
そのカヌー部がキャンプ。ちょっと楽しそうかも。
「俺ちょっとコーヒー買いたい。生協寄っていい?」
「おっ、いいよ」
生協の売店は食堂を出てすぐだ。
岸田のあとを追って中へ入ってみた。
奥行きはあっても狭い店舗。コーヒーは自動販売機でも売っているけれど、お目当てのものは生協でないと買えないらしい。ドリンクの並ぶ冷蔵庫へ岸田がすたすた歩いていく。
上背がある。本人は180センチだと言っていた。はおっている黒のジャケットは少し光沢のある素材で、細身の体にフィットしたもの。
ああいう服をさらっと着こなしてしまう岸田は、ぜんせん違う。いままでの男友達とは。
大人だ。
岸田のあとは追わず、店舗の中をぷらぷら歩いてみる。
お菓子やパンの置いてある棚の向こうには、ノートやレポート用紙、筆記具。その奥には大学生協らしくテキストや文献、参考書や辞典が並べられてある。
それらの前をさっと流したあとに結局、冷凍庫のアイスクリームをのぞきこんだ。
十月になったけれど、雪見だいふくはまだ売っていない。
「アイス食べるの?」
振り返ると岸田が缶コーヒーを持って立っていた。もう会計を済ませたらしい。
少しだけ悩んで、冷凍庫のスライドドアをあける。
ジャイアントコーンを手に取った。
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