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「結局、男は可愛い子が好きなんだよね」
「可愛い子?」
岸田がきょとんとする。
「いや、顔もそうなんだけど、顔だけじゃなくさ。こう、ちょっと、ほっとけないような子? そういう可愛らしさがいいんだろうな、って思ってさ」
あたしには、そういうのはない。可愛げがない。
隣からうーんと唸る声がした。見ると岸田は首をかしげていた。かしげて、ワックスで整えた髪を右手でぐしゃぐしゃにしていた。そして大きく息をはく。
柿崎、と呼ばれた。
「ん?」
やはりあたしはガリガリとコーンを食べていた。内側にコーティングされているチョコレートがまたおいしい。あと10センチくらいしかないのが残念。
残りをもぐもぐやっているところで、岸田が意を決したように聞いてきた。
「お前いま好きなやつ、いる?」
「ファ?」
は? と言ったつもりだったのに。コーンやらチョコレートやらが口にあって、うまく発音できない。
岸田がふざけのない表情であたしを見ている。
何ごとかと思いつつ、とりあえず首を振った。口の中のものを飲みこむ。
「いや、いない」
ギンガムチェックのシャツが一瞬頭をかすめたけれど、ひとまずこう言っておこう。
いない。
とたんに岸田がほっとした表情をみせる。そっかあ。とつぶやいて、また髪をぐしゃぐしゃやっている。
もう一度深呼吸して、顔をあげて。少し赤い目をしてあたしを覗きこんでくる。
「したらさ」
俺とつきあわん?
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