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ぽかんとしてしまった。
もう5センチもないコーンを掴んだまま岸田と見つめあう。
向かいの少し赤い目が、だんだんと潤いを増していく。
あ、やばい。
この場をごまかせ。笑いとばせ。と心の遮断機がおりていく。カン、カン、カン、とやかましく急かすように警報を鳴らして。
「んもー岸田は。まいるなあ。冗談きついって!」
いやアッハッハと笑いながら岸田の腕をはたいてみたものの、彼の表情は変わらない。身じろぎもしない。照れくさそうに、なおかつ期待をこめた目であたしを見つめてくる。
それでもう、笑えなくなってしまった。
ここは食堂から図書館へとつながる通路の端。昼休み、学生たちがおそらく一番通る場所。
その往来のはげしい通路の片隅で、あたしは岸田に告白をうけている。そんなことが起きているなんて、前を行く学生たちは思いもよらないだろう。足早に歩く女子学生も、ふざけてげらげら笑っているふたり組の男子学生も。
いまごろになって緊張してきた。5センチもないコーンを掴む指がこまかく震えだす。指先も、さあっとつめたくなっていく。
「とっ、友達じゃん、あたしたち」
「うん。友達だけど」
女としても好きなんだよね。と岸田がつぶやいた。
またたく間に顔が熱くなっていく。この熱さであればきっと、半端ないほど赤いはず。
「かわいいな、柿崎は」
岸田がふっと笑ってあたしの顔に手を伸ばしてきた。唇の端に親指をつけられ、ぐいっとこすられる。
「チョコついてた」
ほら、と親指を見せられた。
その指にはたしかに、とけたチョコレート。
「大丈夫。もうきれいにとれてる」
おそろしい速さであたしの心臓が動いている。拍動するたび耳元がズキズキするくらいに。
ふう、と溜息をついて岸田が立ちあがった。
「じゃあ俺行くわ。いま言ったの考えといて」
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