75人が本棚に入れています
本棚に追加
駅のホームにあるようなプラスチックの椅子に腰をおろす。食堂にも生協にも近いこの場所では、学生の往来がひっきりなしだ。
コーナーに、グレイの公衆電話が一台置いてある。この携帯電話の時代、使うひとはめったにいないだろうに。
ジャイアントコーンの包装紙をぺりりとめくる。チョコナッツ味。
あんだけ食べてアイスも食べるんだ。と岸田にからかわれて苦笑い。それでも赤い包装紙をめくっていく。
バニラアイスのうえのチョコレートが見えてきた。こまかなナッツも。
岸田はカフェラテと記されたコーヒーを持っていた。北海道の地形がでかでかとプリントされてある缶。
「あのふたり、別れても普通に仲いいよな」
カシュッという金属音。岸田が、プルトップをあけてごくごくと飲んでいる。
話の振りが突然でも、荒木と笹井さんのことを言っているのはすぐわかった。
そうだよね。と同意してからあたしはチョコレートの部分をかじった。
「俺、別れてから友達になるなんてできんなあ。高校の時の彼女とも、もうなんも連絡とってない。切れちゃってる」
「……あー。そういうもん」
そう返すしかなかった。なぜならあたしは誰ともつきあったことがない。
だから、別れたあとの気持ちなんて理解できない。
「案外あのふたり、ヨリ戻したりして」
何でもないことのように岸田が言った。
あたしはかろうじてうーん、とだけ声をのこす。ひたすらジャイアントコーンをかじる。
チョコレートにばらまかれたナッツも。
こまかなナッツがごりごりと口の中で痛い。飲みこむと、喉の奥も痛かった。
すごく甘いのに。
「いいよなあ。岸田も荒木も。高校の時は彼女いて楽しんでたってわけか。青春だなあ」
話題をそらしたかった。わざと軽口をたたき、ハハっと笑ってまたアイスをかじる。
もうチョコレートもナッツもなくなってしまった。コーンのうえにはバニラアイスだけ。
「なに、柿崎はマジで彼氏いなかったわけ?」
「だーかーらー。いままでも何回も言ってるじゃん! いなかったって。っていうか生まれてから一度もそんな存在おりませんでしたから!」
「まったあー」
隣から、鼻で笑う音。
けれどそれはあざけるものではなく、優しい笑い方だった。
「柿崎、すごい可愛いのにな。ちょっと見とれちゃうくらい」
最初のコメントを投稿しよう!