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それ、ほんとかよ。
じとりと岸田をにらんだら、にこにこしていたので調子が狂う。
きれいな顔だちをしているのに親しみがもてるのは、たれ目のせい。笑うとさらにそこへ皺が寄り、口元にはえくぼが浮かぶ。
そんな顔で
「マジにそう思うよ、俺」
なんて言ってくるものだから憎めない。気が緩んでつい笑ってしまった。
「ありがとね。そう言ってくれるのは岸田だけさっ。みーんなあたしのこと男オンナだとかガサツだとか、そんなんばっかだから。荒木みたいにさっ。ま、実際そうなんだけど」
「なーにを。んなこと言ってるけど、誰かに告られたことくらいあるしょ? 柿崎ほうっておく男いないだろし」
なぜに今日の岸田はあたしを持ち上げるのだろう。でも悪い気はしない。
もしゃもしゃとジャイアントコーンを食べながらうなずく。
「まぁ……あるにはあったけど、違うクラスの話したことない男子とか、他の学校の男子とかだし。知らないひとにつきあってなんて言われてもさ。困るよね」
「そうかあ? そういうもんかな? 俺はフツーに嬉しいけどね。告られたら」
岸田が缶に口をつけていた。カフェラテと記された缶はまさにそれっぽい色をしていた。ミルクがたっぷり入っていそうなベージュ色。
岸田が、缶から唇を離した。
「つかさ。ただ単に、その時柿崎に好きなやついたからでしょ? だから告られても困るだけだったと」
するどい。
図星をつかれて笑うしかなかった。
「まあ、実はそうなんだけど。でも本命はいつもダメだったんだよね。向こうにもう相手いたりして」
「自分から告ったりは?」
「やー、ないない。てか告る前から失恋しちゃってるパターンばっか。なんもしないで終わりなんだよね。高校の時の好きなひとにはさ、あたしが一番仲良くしてる子のことが好きって相談されちゃって。席替えの時、番号クジ交換してやったこともあったなあ。その子の隣の席になれるようにさ。おかげでふたり、めでたくつきあいだして」
「かいがいしいな」
「そんなこともあったねー。ま、いまとなれば懐かしい思い出ですけどね」
あたしはガリッとコーンをかんだ。コーンにのっていたバニラアイスは、すでにない。
ガサツだわ、食べるのは早いわ。
こんなんだから男ができない。本命もふりむかない。
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