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2029年。
政府の掲げた『一般市民にもより身近な法曹を』という司法改革により、司法試験合格者数が増えたことで弁護士が急増。
よって仕事をなかなか確保出来ない弁護士が増え、生活を困窮させる弁護士も出てきたことで社会問題化した。
そのような状況下で弁護士達はより仕事を取ることが出来るように、個性を打ち出してそれを武器にする者達が増えた。
そんな中、
『筋肉こそ正義』
を合い言葉に、とある弁護士達が台頭してきていた。
彼らの存在は今までの弁護士には姿も考え方も異質であり、ある意味その破天荒な考え方と行動力で、変更された法律、新たに作られた法律は数知れない。
それは弁護士会自体のあり方すらも変え、彼らが多くマスコミに出ることもあり今では彼らに憧れて弁護士を目指す人々も増えた。
彼らのことを人々は、マッスルとロイヤーを合わせて、
『マッスロイヤー』
と呼ぶ。
*********
東京地方裁判所にあるとある民事部。
これから行われる裁判の準備を書記官がしていた。
「ねぇ、今日はマッスロイヤー何人くるの?」
「原告側に1名だけ」
「良かったぁ。
以前、原告被告側合わせて5名もマッスロイヤーが来て、法廷の気温と湿度が急上昇しちゃってさ。
そのせいで裁判長のめがねが曇る、なんて珍事も起きたんだから」
「あぁ、冬はまだマシとしても夏は地獄よねぇ」
女性書記官達は、そう言いながらため息をついた。
裁判の開廷前に、原告被告両者が法廷内の席に着く。
原告側の弁護士はいわゆる「マッスロイヤー」と呼ばれている、王子正義(おうじまさよし)で、その正義はどさりと机の上に資料を置いた。
筋肉隆々な肉体、身長は180センチを越え、もうすぐ冬というのに半袖の白シャツを着ている。
厚い胸板で前のボタンは今にもはち切れそうなぐらいギリギリで閉まっており、女性の太ももと同じ太さであろうその腕は、シャツがぱつんぱつんに張り付いていた。
顔つきも昔で言うソース顔というやつで、一見日本人離れした目鼻立ちだ。
マッスロイヤーは体型が特殊ゆえ、オーダーでなくてはスーツもシャツも買えず、そもそも暑がりと言う事から、マッスロイヤー会に所属するマッスロイヤーは弁護士法に新たに新設された『公共の福祉に反しない程度に生存を優先させる』という謎の条文を元に、夏はタンクトップで法廷に立つことも許されている。
しかしその姿見たさだけに傍聴人が急増したことで、現在はさすがにタンクトップで法廷に立つ弁護士はほとんどいなくなった。
だがやはり、暑いものは暑いと言うことで、伸びるTシャツやポロシャツを愛用する者が多い。
公共の福祉に反しない程度、非常に難しい問題なのだ。
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