9Z

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 運命の出会いを果たした。  陳腐な表現だがこれがぴったりなのだ。  それは俺の職場、マフィン専門店でのことだ。  マフィンといえば誰もが甘い食べ物と認識しているだろうが、うちは甘いのだけじゃなく、ベーコンやチーズ、うずらの卵やトマトなどおかず系も置いている。なのでランチとして買ってくれるOLさんも結構いて、昼時は結構あわただしい。  焼き方兼オーナーの坂本さんは厨房の手入れを済ませたら、休憩かたがた一旦店を去る。それがだいたい午後一時。そして閉店時間が近づくと、売上金の回収のために戻ってくる。  開店から入っているバイトも午後一時であがる。午後のバイトが入るのは二時から。したがって約一時間は店長こと俺のワンオペとなる。けれどいわゆるお茶の時間くらいまでは客足がまばらで、ドタバタすることは、ほぼない。  そんな余裕をぶちかましてるときに、ひとりのリーマンがあらわれた。  年の頃は四十代、ベテラン営業マンか。 「えー、女性ウケしそうなところで見繕ってほしいんだけど。箱代かかっても構わないから見映え重視で」  この時間だし女性ウケ狙いなら当然甘い系だろう。ってことで、チョコチップ、バナナ、リンゴ、くるみ、ココア、抹茶、栗、キャラメル、カスタード、これら1個ずつを、3列x3列の箱に収め、確認を求めた。 「うん、それでいいよ」  チラ見で承諾した彼は財布から一万円札を取り出した。 「領収証…あ、普通のレシートでいいや」  俺は受け取った札をレジのクリップに留め、つり銭とレシートを渡し、マフィンの箱を渡し、見送った。  札をレジにしまう瞬間、番号が目に入った。  末尾9Z。しかもこの札、あまり使用感がない。  ……………欲しい。  言っておくが、俺はコレクターじゃない。けどこの番号が激レアなのは知っている。ついでに言っておくが、転売したいわけでもない。金を売るっていうのは、平たく言って気持ち悪い。  さらに言っておくが、横領したいわけじゃない。交換したいって意味だ。  が、今の俺の持ち合わせは確実に一万円を切っている。スマホ決済に慣れきったせいで手持ちが少なくても全然気にならなくて、何なら財布を忘れても平気なことさえある。  とにかく交換のために一万円を用意しなくては。坂本さんが回収に来る前に。  早番のバイトはすでに帰っている。そして俺は店長として、店を無人にするわけにはいかない。だったら二時にバイトが来るはずだから、それを待って中抜けするか?   今日の遅番バイトはトオルか。ヤツは割と早めにくる。あと5分ってところか。  理由を聞かれるのは面倒だけど、横領疑惑を避けるためにもヤツを目撃者に仕立てるべきだ。待とう。  
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