闇夜≪朔≫

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スーツケースの取っ手を引き出し、玄関に移動しようとする私の手首を真一が掴む。 「絢香達が心配するから…」 堰き止めてた怒りが爆発した。 「だから何?貴方の家族なんだから貴方が説明すれば!」 泣くもんか。 真一の前では絶対。 立ちつくす真一とは反対に、渉君は玄関まで追いかけてきた。 靴を履いてる私に、 「曜子さん!僕はあなたを愛してる!」 今そんな台詞は聞きたくない。 身体を重ねただけで、心まで繋がったと思ってるなんて…まるで、少し前の自分を見ている様。 あまりに哀れで、泣けてくる。 振り返ると、渉の強烈な視線とかち合う。 「今は信じられないだろうし、無理だけど、後で必ず迎えに行く!」 馬鹿みたい。 一回り近く離れてる若い男の何を信じろというのか。 家を出る時、振り返って庭を見た。 もう、見ることも無いかも知れない。 先程のスコールで芙蓉の花が、いくつか散っている。 庭の芝に落ちた、その女の寝姿みたいなしどけない花姿に、自分を重ねた。 この家で迎える凶事。 それはいつも、いきなりやってくる。 父の時もそうだった。 私にとって家庭の象徴だった家。 家族が愛した庭。 そして、家族になるかもしれなかった人達。 さようなら、その全て。 今日それらを捨て、私は一人になる。 (完)
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