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「どしたの?」
ジョンが私の顔を覗き込む。
日本のサラリーマンが行く、ごく普通の居酒屋に行きたい!というので、待ち合わせ後、駅前に移動した。
その時、夕方の惣菜をバイトさんと売ってた真一に挨拶したジョン。
「ん、どう思ったかなと思って、彼の事」
カウンター席に座り先ずは乾杯してから、お互いの近況や学生時代の友人知人の話に花が咲き、料理も出て何杯目かのジョッキ。
考えないつもり、聞かない予定が呆気なく崩れる。
「若いよね?彼。色々と」
ジョッキに口をつけながら、ジョンは遠い目をする。彼は白い肌だから、アルコールが入ると赤ら顔が目立つ。だが未だ酔ってないハズだ。彼は酒に強い。それもバイキングの末裔の証か。
「ごめん!今はメル友で未練も無いって説明したんだけどね…」
手を合わせ謝る。
「敵対心丸出しだったよね、彼」
枝豆を一粒ずつではなく、片方の手のひらに何粒かまとめて口に入れるジョン。
もぐもぐ咀嚼した後、
「あれをヨーコが重いって感じないなら、愛されてるって思った方が幸せじゃないかな」
私と知り合う前から、日本のコミック全般を愛読してる為か、ジョンは欧米人には珍しく、曲がりくねった思考をする。
私に初めて声をかけてきた時も
「○○って漫画、読んだ?」だった。
今では母校の大学で、日本のコミック史を研究し日本文化の遍歴として教えてる程だ。
「…愛してるって何なんだろうね」
久し振りに飲む酒に酔ったのかも知れない。恥ずかしい言葉が出る。
「ま、独占欲だけじゃ駄目だね」
ジョンは最後の一本だった焼き鳥を摘まみ、口にする前に台詞と共に頭を横に振る。
焼き鳥を食べ終わったのを見計らって、私が
「やっぱ必要よね?スキンシップ…」
と呟くと、彼は美味しそうにビールを呑みきり、ドンっと置く。
「マスト。それ無くしてどうやって愛情を確認すれば良い?」
そして通りがかった店員にお代わりを頼む。
片肘を立て掌に顎を乗せ、私と視点を合わせ
「気になったんだけど、彼処はヨーコの家だろ!?」
少し怒った様に尋ねてくる。
「そうよ」
「何で彼が家の主みたいな振る舞いをしてるの?ヨーコの家のアドレスをナビりながら着いた時、飲食店みたいになってて間違えたかと思った」
「……」
「愛情をまともに示さない男に、自分の住み処差し出してヨーコはマゾ?」
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