重力

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こんな小道具1つや2つで最後まで出来るなら、もっと早く使っとけば良かった。 真一達が同居し始めて、はや5年になる。 最初は賑やかな居候達という感覚が、私の中で毎日の日常となった時、正直戸惑った。 彼らは基本、自分の事は自分でやってくれたが、やはり人数が多くなった分、家の中の雑事が増えた。 真一が我が家の台所と軒先を使用して、興したテイクアウト専門店は当たった。 食材の仕入れから仕込み、販売、収支管理と彼1人でこなすのは、目に見えて大変そうなので、私は内職を辞めて手伝った。 当時、定時制の教職は続けてたので、生活のリズムを整えるのはなかなか大変だった。 同居前、真一から告白され、年齢差に戸惑いながらも付き合い始めた。 けれど真一のハードワークと渉君や双子達がいる自宅で、恋人らしい甘い雰囲気は無理だ。 飛ぶように日々が過ぎていった。 あれは開業の為、我が家に住みたい為の美辞麗句だったのか?と思う位、何も進展しない私達。 しかし店が軌道に乗り始めたら、時には人目を避けて甘いキスや、筒井の籍に入りたいだの、温泉旅行しようだの、私達の関係を先に進める事を口にする様になった彼。 彼が計画した2人だけの一泊旅行は、楽しみだった。 久しぶりにスキンシップを満喫出来る!と私は張りきって事前準備した。 真一と初めての夜になる事は、疑い様がなかった。それなのに… 渉君の忠告を思い出した。 同居直前に会った学ラン姿の彼は、まだ線の細い体躯、切れ長の目でシッカリ私を捉え、 言ったのだ。 「ヨーコさんが紡ぐのは所詮、疑似家族だ。 真(にい)が側にいて欲しいのは、自分が反発している母代わりの、理想的な母親。貴女の求めてる恋人像とは違うよ」 そんな意味合いだった。 認めたくなかった。
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