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真一の優しさや佑君達の明るさは、父を亡くし天涯孤独になった私を救ってくれた。
癒してくれた。
彼が平穏な疑似家族を求めているなら、それでも良い。付き合ったあげる。
でもそれは、私の中に真一に対する恋愛感情があるから。
セックスだけが愛情表現ではないが、やはり求められたい。
途中まで昂っていた。
年上の私の裸でも、彼を燃え立たせる威力があるんだと安心したのに、いざ私の中に入り律動する段階で、力を失う。
その繰り返しだった。
口づけや愛撫では昂るのに、私の中では愛せない。
指や舌で愛して貰ったが、物足りない。私が処女ではないから、尚更飢える。
何度目か萎えた彼自身を感じて、最後まで出来ない原因が万が一、以前真一から聞いた思春期に母親の性行為を見てしまった事なら、それがトラウマになっているなら、繋がるのは絶望的なのでは?
そう悲観的に考える反面、
私は、真一の母ではない。
真一自身が伴侶にと望む、別の女なのだ。
まさか女の嬌態全てが、母親に見える訳ではあるまいと、
堂々巡りの思考の始まりだった。
旅行から帰宅後は、そんな不安に囚われる暇がない位、加速度的に忙しくなった。
庭カフェをやるにあたって、アウトドア用の椅子やテーブル、パラソルや備品を買い揃えた。
かねてより私は庭カフェに反対だった。
これ以上繁忙になったら、真一が身体を壊さないか心配だったから。
しかしアルバイトを雇ってでも、やりたいという真一の意思は固かった。
「立地が良いんだよ。車は通れないが、人通りはある。ペット同伴O.K.にするか悩むけど、誰でも散歩の途中で気軽に一服できる、そんな開かれたカフェにしたい」
熱弁をふるう彼に負けた。
ペットの立ち入りだけは断固拒否した。
レイアウトは、庭の所有者である私に任せられた。
テーブルぎゅうぎゅう詰めは興が冷めるので、ゆったりとした配置。
庭木も改めて見直し、垣根と思い入れのある樹木だけ残した。
祖母と父が愛した庭が新しく生まれ変わり、誰かの心の拠り所になれば良い。
草木の手入れをしながら、前向きになっていく私は単純な女だ。
そこに、つけこまれたのよ。
と私の心が叫ぶのは、今少し後の事。
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