60人が本棚に入れています
本棚に追加
薄氷を踏む様な日が続いた。
真一の機嫌を伺う日々。
そんなある日、週末限定の産直再開のチラシが入った。風水害の被害で、まとまった野菜が収穫出来ず一時中止になっていた行事だ。
安価で珍しい野菜もある。
気分転換にパアッと買い込むか。
通常の仕入れもあるので、真一に伝えると
「今週末?良いね、珍しい野菜購入してきてよ。曜子一人で平気?」
ん?
真一の機嫌が良い、笑顔だ。
ストレス発散に一人で行きたかった位だから平気だが、暦上は秋になった。
全く真一心と秋の空だ。
産直の場所は、家からB 町方面に自転車で15分位行ったところ。
野菜を選んでいると、後ろの陳列棚にいる女性2人が話す内容が気になった。
「うちの旦那さ~偏食で本当やんなる」
「気にして作るの面倒くさいよね」
「そう。子供の手前、好き嫌いなく食べて欲しいし」
「だよね」
「全く!味覚がお子ちゃまから成長してないんだよ!」
「あははは~そう言えば旦那さん、年下だっけ?」
「うん、4歳下」
私は不自然にならない様に、話が聞こえる範囲に移動する。
「へえ。ジェネレーションギャップとか感じる?」
「それはないけど、ご機嫌伺いが疲れる」
「スネちゃうって事?」
「うん。食事の事もそうだけど、うっかり気に入らない事をやると、ママはパパの事気にしてないんだねってウザい」
「色々面倒だね~」
「旦那さん、年上だっけ?」
「そう。ま、年上でも男はいくつになっても子供っぽいけどね」
「『だよね!』」
2人がハモる。
年下の真一を子供っぽいと感じた事はないが、頑なだと思う事はある。
長男として家族に対する態度。
料理の事ばかりを追及する姿勢。
まともにセックスが出来なかった時の項垂れ具合…
一本気というか、こうあるべきという型にハマっている彼。
いつかソレが真一の首を絞める気がする。
最初のコメントを投稿しよう!