潮汐力

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潮汐力

庭カフェが開店し、三食のテイクアウト販売と同時営業は、真一の目の回る忙しさの始まりだった。 真一は、早朝から朝食テイクアウトの準備。簡単に食べれる様にサンドイッチやおにぎりだが、具材に凝ってる。定番セットと日替わりの2種。 常連さんの人数+数人分だけ作るが、通勤時間が終わる頃までには売り切れ。 段々と常連客の人数が増えて来ている。 私は皆の朝ごはん担当で、高校生の渉君のお弁当は、真一が店の仕込みをしながら作る。 同居が始まってからのお約束パターン。 日曜定休で土曜日は不定休、強風や雨天時は閉店する気まぐれカフェだが、 テイクアウトの常連客や、公園目当ての客、 SNS投稿に映える庭目当てに、 様々なお客様が喉を潤しにいらした。 真一はスイーツも出したいらしいが、三食の仕込みの上にパティスリー業は、どんなに欲張りな彼でも無理だ。 その代わり、ドリンクの種類を豊富にした。 世界中の茶葉を揃え、珈琲の入れ方を変え、果汁100%のジュースを提供する。 ドリンクを注文するなら、うちで買ったテイクアウト弁当を広げて食べても良しとした。 結局、私は教師を辞めた。 仕込みが終われば販売をバイトに任せ、カフェに関わってた真一の疲労を見かねたのだ。 父の介護をしてた時、私の唯一の趣味がティータイムだった。 使う水から拘りお湯を沸かす。 ゆっくりと煎れる事で癒される自分。 なのでスキルを活かしカフェの責任者になる。 そして定時制高校を退職すると宣言した時、関口家兄妹は一様に複雑な顔をした。 「助かるけど…本当に良いの?」 と真一 「ヨーコさんの煎れる紅茶、美味しいものね」 は綾香ちゃん 「最近、夜道危なかったから、良かったじゃん」 は佑君。 渉君が露骨に苦虫を潰した表情をしていた。 一人台所で片付けをしている最中、マグカップ片手に渉君がやってきた。 「…良いの?そんなに簡単に夢を諦めて」 教師になった経緯は、何かの折り皆に話してあった。 10代の頃の自分が描いてた夢の形とは違ったが、今ではそれで良かったと思えていた。
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