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只この時期、
渉君の大学受験、翌年は双子の高校受験と重なっていたのが真一の忙しさに拍車をかけていた。
関口家の子ども達は、恵まれたことに教育信託財産がある。
真一は母親に代わって、信託財産を使った学費の支払い等の申請手続をやっていたようだ。
渉君は飄々と進路を決め、難なく合格したが、双子達は大騒ぎだった。
成績の良い綾香ちゃんは、先生から地元で一番の公立進学校を勧められたが、部活動はやりたくないと私学単願を選んだ。
逆に佑君は、公立のサッカー強豪校を希望したが、成績がギリギリで最後まで不安だった。
自宅から通うには遠い国立大学だったので、渉君が先に家を出た時は、彼が関口4兄妹の要の役割だった事を実感した。
忙しい真一の代わりに、双子達の手綱を引いていたのだ。
渉君が家を出てく時、初めて会った時より体格が大人に近くなった彼を見て、思わず涙が溢れた。
「曜子さん、泣かないで」
私の肩に置かれた手も、がっしりとした青年の手になった。生意気な意見を言った、少年の面影はもうない。
年の離れた弟の旅立ちを見送る姉の気持ちだ。
店の車に引っ越し荷物を積み込んだ真一が
「行くぞ!」
と声を張る。
「分かった!曜子さん今まで有難う。兄や佑達を宜しくね」
「…声、真一に似てるね」
涙を拭いながら、意外と近くで聞こえた声に微笑んだ。
「渉兄、行こ。曜子さん行ってきます!」
引っ越しの手伝いに行く綾香ちゃんが、軽快に車に乗り込む。
佑君はサッカー部の試合で早朝からいない。昨夜の送別会!?は大騒ぎだった。佑君曰く
「俺の時代が来る!!」と。
そんな風に各々の希望する学校に入学した時、真一共々肩の力が抜けた。
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