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双子達が高校に合格し、楽しく通っているのを見て、真一は本当の意味で重荷が下りたのだと思う。
義務教育より先の勉学は本人の意識次第。
進学しても退学する子もいる中、毎日お弁当を持って
「行ってきます!」の挨拶で元気に出て行く2人に、安堵してる様だ。
頭は良いけど、他人と距離をおきたがる綾香ちゃんは、真一にとって悩みの種だった、といつか打ち明けられた。
私は同性だったし、少し人見知りする女の子程度だったが、彼は思春期の妹に接する態度を決めあぐねたらしい。
今では普通の女子高校生らしく、お化粧や旬の話題を披露する娘さんだ。
綾香ちゃんは部活をしてないので、放課後、自由だ。
「人間観察が好きなの」
と言って、街で待ち合わせのフリして人の動向を見ていたり。
話題のお菓子を買って来たと思ったら、食べた翌日、同じ様なお菓子を台所で作り、
「どっちが美味しい?」
と聞いてくる。
私は彼女の作ったマフィンをお供に、今コーヒーブレイクしている。
さっきまで食卓で、店の仕入れ伝票や日毎の売り上げを反映した収支バランスを、ノート型PCで見ていた。
本体はコーヒー味、その上に少量の塩キャラメルのアイシング。
美味しい。
甘い物が苦手な真一にも好評だ。
多分、庭カフェでスイーツを出したいという真一の意を汲んでる気がする…
庭カフェは、収支バランスが良くない。
基本ドリンクだけ。
天候に左右される営業時間。
これ以上調理や給仕に、なるべく人手をかけず稼ぎたい。
オープン当初から、テイクアウト用のちょっとお洒落な紙カップでドリンク提供してたのも、人件費対策だ。
レジの横に日保ちする焼き菓子を置けたら。
カフェだけじゃなく弁当販売のレジ横でもアリだ。
ただ、菓子製作を真一には任せられない。
かといって綾香ちゃんにも頼めない。
マフィンを一齧りする。
…今の私には甘味が足りない。
もっと頭にガツンと響く様な甘さ、
麻薬の様な甘さが欲しい。
店の経営ストレスのせい?
真一への欲求不満のせい?
渉君が出て行ってから部屋割りが変わり、真一と同じ部屋で寝起きしてる。
なのに、代わり映えのしない2人の仲…
自分自身の子育てを望むなら、もうそろそろ次のステップを考えなければならない時期に来ている。
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