6人が本棚に入れています
本棚に追加
《……ハルはその人間を愛しているのだな》
そのように問うてくるサクラにハルは朔夜を抱きしめながら頷く。
離れている間、朔夜を想わない日はなかった。
会いたくて会いたくて仕方なかった。
それでも独り、世界の流れている様を見ているサクラを放っておくことは出来なかった。
朔夜に何も告げずに目の前から去っていったのだ。
紅くなりすぎてこれ以上命を保つことの出来なくなったサクラの最後をせめて側にいて看取ろうと。
自ら囚われの身となったが、こうして朔夜と再会すると気持ちは溢れ出してしまった。
救い出そうとしてくれた朔夜の手を取ってしまった。
これは孤独なサクラを見捨てたハルへの罰なのかもしれない。
朔夜を失うことはハルにとって最も恐れていたことで、今現実として訪れていることから逃避したかった。
《……もう良い》
「え」
《 私はもう充分だ。ハル、君がいてくれたおかげで私は一人ぼっちではなくなっていた》
「っ私は……」
《優しい娘だ。ここまで紅く染まった私の側にいてくれた。世界の罪が刻まれるこの身を愛してくれた。充分だ……。ありがとう、ハル》
散ることが止まらない深紅の花びらは、天に大きく広がっていた面積を縮めていく。
量の多かった花のために見えていなかった枝が見え出し、裸へとなっていく。
それと同時に朔夜の身体から薄紅色の光が放たれ、光の帯が傷口に触れては紅く染まっていく。
癒えていく傷にハルは朔夜とサクラを交互に見ては凝視する。
元の綺麗な姿へと戻っていく朔夜と、散っていく桜に戸惑いを隠せない。
もう何も吸収できなくなっていたサクラがハルの悲しみを吸収してしまったがために、本来よりも早く“時”が訪れてしまった。
散る逝くしかなくなったのだ。
最期の力を使って“ハルの愛した朔夜”の傷を癒し、サクラは命を尽きさせようとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!