6人が本棚に入れています
本棚に追加
――薄紅色の光が消えると朔夜は目を開き、体を起こす。
ハルの姿を確認した後、辺りを見回し、花を失ったサクラの姿に驚愕する。
一面を紅く染め上げた深紅の花びらは次々と茶色く枯れていき、大地へと消えていった。
「どうなってるんだ、一体……」
身体中にあった傷はすべて癒えており、ハルはさめざめと泣いている。
何より、あれほど怒りを見せ付けていたサクラが花を失い、枯れ始めていた。
気を失っている間に何が起こったのかを把握できない。
朔夜は現状にうろたえることしか出来なかった。
《人間よ……いや、朔夜よ。お前にハルを愛し続け、守り抜くことは出来るか?》
先ほどよりも声がしわがれてはいるものの、サクラの根本にある威厳が確かに声に現れ出ていた。
死が目の前に迫っているからなのか、サクラは朔夜の名を呼んだ。
朔夜は自分の中にあった戸惑いなどをすべて振り払う。
真剣な表情でサクラを見つめ、深く頷いた。
そして隣で今だ泣き続けるハルの肩を抱くと、その華奢な身体を包み込んだ。
「何があってもハルだけは守り抜いてみせる。愛し続ける。何度だって誓ってやるさ」
《ならばハルを守り抜け。ハルがそなたを必要としている。そなたとなら……きっと大丈夫なのだろう》
朽ちていくサクラは老いた枝を地面へと落としていき、まるで雷が落ちた後の木のように惨く生々しい姿へとなっていた。
朔夜はようやくサクラの気持ちを理解することが出来た。
同じ“ハル”という一人の女性を想う者として、朔夜とサクラは通じ合っていた。
ずっと蔑まれ孤独に世界を見守り、過ちを繰り返す世界に絶望していた。
悪の華と呼ばれ、そしていつしか存在さえも消え去る。
そんな目の前に迫った死を感じ取っていたときにハルが現れ、最期まで傍にいてくれようとした。
だからこそハルを手放したくなかった。
朽ちるしかなくなったサクラは朔夜にハルを託すことを誓ったのだった。
最初のコメントを投稿しよう!