桜が消えた世界

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「あなたの意志を引き継ぎます。朔夜と一緒ならがんばれる」 《……ありがとう、ハル》 ハルの言葉にサクラが流した涙なのだろうか。 天からは雨が降り出し、朔夜とハル、そしてサクラを濡らしていった。 遠い遠い昔、春という季節が訪れると人々はサクラを見に来ては喜びを感じていた。 サクラを愛し、大切にしてくれる人々がいた頃はサクラもまだ薄紅色で、毎日が幸せで、人を愛していた。 それがいつしか人々はサクラを見に来ることはなくなった。 戦争で悲しみは増えていき、紅くなっていくサクラを不気味に思うようになっていた。 いつしか悪の華と忌み嫌われ、呪わしい存在となっていた。 サクラを堕とした世界を、一度は諦めてしまっていた。 けれどもこの二人ならきっと……きっと……。 《ありがとう》 サクラは静かに視界を閉じると、身体に入っていく亀裂の音に耳を傾けていた。 壊れていく自分自身に、不思議と恐怖は湧かなかった。 朔夜はサクラが倒れてしまうことを察し、ハルの手首を掴むとその場から去ろうとする。 ハルはサクラから離れたくないと朔夜の手を拒絶しながらも、力叶わずサクラとの距離ができていってしまう。 サクラを救ってやることが出来ず、悔しさで唇を噛み締めながら朔夜はサクラの倒れる音を聞き、静かに涙を流した。 一方のハルはサクラが倒れてしまうのを間もあたりにしてしまっていた。 悲鳴を上げながら朔夜と共にその場を離れていった。 もうこの世界を見守ってくれる存在はいない。 人間を愛し、見捨てずに見守ってくれていたサクラはもうこの世界に一つとしていないのであった。
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