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その場から離れた朔夜とハルは後ろを振り返る。
見えなくなってしまったサクラの冥福を祈り、涙を流し、互いに抱きしめあった。
ハルを道連れにと自由を奪い、朔夜に酷い仕打ちをしたかもしれない。
だがそんなことよりもこの世界を見捨てずにいてくれたサクラを、失ってしまったというショックの方が大きかった。
サクラだって生きていた。
喜びも悲しみも感じる生き物である。
悪の華と呼ばれようが、蔑まれようが、ただ人を愛し生きていたのだった。
朔夜たちは前に進まなくてはならない。
サクラの愛してくれた人々を、世界を元に戻すために。
またこの世界をサクラで咲き誇らせるために。
朔夜とハルは互いの身体を離すと再びサクラの立っていた方向へと目を向け、そして目を見開いた。
荒地と化していた大地には命が芽生えており、小さいがサクラの木々が何十、何百本と立ち、薄紅色に花を咲き誇らせていた。
奇跡としか言いようのない光景に朔夜とハルは目を合わせ微笑みあった。
「……あのサクラはもういない。けれども命は繋がっていく。こうして人も、サクラも、生きているんだな」
「うん……」
この美しい大地を失わないように、この美しい大地を世界に広げていくために。
あのサクラは姿はなくとも魂は生きている。
朔夜とハルは、手を繋ぐと空を見上げ、サクラを想い、そしてサクラを願いを叶える未来をつくることを誓うのであった。
「ここから始めよう。そしていつか……人が笑顔でいられる世界を作ろう」
朔夜の言葉にハルは満面の笑みで頷き、朔夜の手を取るとその指先に口付けをする。
しかし朔夜はそっとハルの薄紅色の小さな唇に自らの唇を重ねる。
ここから始めよう。
人々が笑いあい、戦争のない平和な日々が訪れ、サクラを見ては心を和ませる……そんな優しい未来を作り出すために――。
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