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桜が消えた世界
【桜ひらひら舞い堕ちて消える】
ある日、突然最愛の彼女がいなくなった。
生きる希望も何もなかった罪人・朔夜に愛とは何かを教えてくれて、生きる喜びを与えてくれた、誰よりも何よりも大切でいとおしい彼女。
朔夜は彼女がどこかで必ず生きているのだと信じ、探し続けた。
そしてようやく見つけ出す。
しかしようやく発見することが出来た彼女の姿は目も疑うような信じられない姿へと変わってしまっていた。
深紅の花びらをつけた枝を天(そら)いっぱいに広げ、何十本分もの太さを見せ付けてくる極太の幹、大地に生々しく根を張ったその木に彼女はいた。
まるで蔓のような不気味なものに彼女の体は幹に縛り付けられ、腰まで伸びる琥珀の髪を乱しながら目を閉じていた。
姿を消してしまう以前の生気に満ちた彼女ではなく、疲れきった様子で木に縛り付けられている虚ろな彼女だった。
やっとの思いで見つけ出した彼女が何故こんな状態になっているのかもわからなかった。
朔夜は早く彼女に気づいてもらいたいという一心で彼女の名を叫ぶように呼んだ。
「ハル! ハルーッ!!!」
その名のとおり、春のようにあたたかな心を持つ彼女はその声に気づくと閉じていた目を開き、透き通るような瞳で彼の姿を捉えた。
瞳だけは以前と何も変わっておらず、翡翠色で、どこまでも見透かすような目をしていた。
「朔夜……」
朔夜は今にも消えてしまいそうなハルのか細い声に胸を締め付けられ、悔しさに下唇を噛み締め、彼女に触れたいという衝動に駆られていた。
腰に下げていた剣を抜くことも忘れ朔夜は止めていた足を動かし、彼女に向かって走り出していた。
だがその走り出していた足は強制的に妨げられ、朔夜の身体は弾き飛ばされ、ハルとの距離が遠ざかっていた。
何が起きたのかわからず、宙にいる状態の朔夜は聞こえてくるハルの悲鳴しか感じていなかった。
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