6人が本棚に入れています
本棚に追加
見つめ合う二人を他所に地響きは大きくなるばかりで、それだけではとどまらず、強風がその場に吹き荒れた。
深紅の花びらが散り、サクラなのにその鮮やかな赤は血を連想させた。
視界を塞ぐサクラの花びらに、朔夜は目を細め、何とか視界を確保しようとする。
そんな朔夜の耳に、突如重低音の不気味な声が入ってきた。
《ここから去れ。穢れた愚かな人間》
どこから聞こえてきたのかもわからず朔夜は辺りを見回すのだが、ここには自分とハル以外誰もいない。
そうとなると考えられるのは一つしかないのだが、そんなことが起きても良いのかと困惑させられた。
朔夜はこの聞こえてきた重低音の声の正体は目の前で存在感を示している深紅のサクラなのではないかと考えていた。
この考えを肯定するかのようにハルは顔を蒼白させ、流していた涙を一瞬にして引っ込めていた。
《去れ、人間よ。この娘は渡さぬ》
「っ声の主はサクラなんだな!?」
《いかにも、私は貴様の前に立つサクラなり。理解したなら即刻この場から立ち去れ》
抑揚のない声は目の前に立つサクラが怒りを見せていることを表していた。
ハルを幹に巻きつけ、解放しようとしないサクラの謎めいた考えに、朔夜は深々と眉間に皺を刻んだ。
悪の華サクラであろうと、ハルを帰してもらうまでは引き下がることは出来ない。
朔夜はその場から動こうとはせずに桜を睨み付けた。
サクラは去ろうとしない朔夜を見て、深紅の花びらを朔夜に打ち付けてゆく。
普段はやわらかく優しく散る花びらだが、強風と共に打ち付けられると凶器と化す。
カッターのような鋭い切れ味で朔夜の身体に傷を付けていった。
ハルを救い出すためにはここで怯むわけにはいかず、朔夜は意地で堪えぬく。
桜吹雪が止んだと同時に地面に突き刺していた剣を抜き取ると、サクラに切っ先を向けて構えた。
最初のコメントを投稿しよう!