桜が消えた世界

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血と負の感情でサクラが紅く染まるというのならば、今、目の前に立つこのサクラはそれほどそれらを吸収してしまったということなのか。 鮮やかなほどの深紅は生々しく、背筋を震わさせるほどに赤かった。 「だから紅いのか」 《今の世界は、何度戦争を起こした?どれだけ血を流せば気が済む? 飢えに苦しむ人がいるのに見てみぬふりをする者。親を亡くし身寄りのなくなった子供がいて、それを奴隷として売り飛ばし、そして殺す。だから人間は愚かなのだ。過ちを犯しても気づかずに何度も繰り返す》 サクラの言うことを否定できないからこそ朔夜は押し黙ってしまった。 何回も世界で戦争は続いている。 無くなる事のない貧富の差。 行き場所をなくした子供たち。 昔は美しかった水は汚れてしまいそのまま飲むと死に至ってしまうほど有害なものとなってしまっている。 そんな現状を見てみないふりをして、同じ過ちを繰り返すから人間は愚かなのであった。 このサクラは世界を呪っていた。 《ハルだけだった。悪の華として傷みつけられ、今では腐りゆき、死を見つめるばかりだ。そんな私を身を呈し、抱きしめてくれたのがハルだった 》 サクラの言葉と同時に朔夜の中に記憶が飛び込んでくる。 人の手で斬り付けられる幹。 有害な水により蝕まれる根。 縄をくくりつけ、罪人を吊るす枝。 悪の華として蔑まれ、存在を畏怖の対象とされ、サクラはその身を業火に晒すように苦しんだ。 そんなサクラも元に歩み寄り、そっと触れ、穏やかに笑って抱きしめてくれたのがハルであった。 サクラは涙した。 朽ちていく身体の音に耳にしながら、ハルのやさしい心に身を震わせた。 この世界にまだ美しい心が残っていた。 悪の華と呼ばれるこの身を愛し、慈しんでくれる存在がいた。 この身はもう終わりを待つばかりであるが、最後にサクラは己に与えられた役割を感じていた。 この醜い世界にハルは似合わない。 ならばこの身と共に、ハルをこの世界から解放しよう。 そしてサクラは蔓を伸ばし、ハルを拘束し、時が訪れるのを待つのであった。
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