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《……ハルは渡さぬ! 醜い世界にハルは似合わない! 汚すわけにはいかないのだ!ましては穢れた人間である貴様の傍に置いておくなど、我は認めぬ!》
何があろうとハルを手放そうとしないサクラは狂ったように暴れ狂う。
根を地面から持ち上げると振り回し、辺りは強風と地響きで不安定な状況となる。
ザワザワと激しく音を鳴らしながら揺れる深紅の花は大量に散り、強風により巻き上がった竜巻に流れていき赤い渦を作り上げる。
そんな危険な状況にすでに傷だらけの朔夜は立ち向かっていく。
根が朔夜に襲い掛かり何度も体を打たれようが、何本骨が折れようが、出血により片目を開く状況になろうとも……。
朔夜は倒れることなく着実にハルへと近づいていっていた。
身体の感覚などとっくに失っている。
それでも朔夜は手を伸ばした。
こんなところで諦めてたまるものか。
誰よりも愛おしくて何よりも大切なハルを求めて心が叫んでいた。
「――ハルッ!!!」
構えていた剣の切っ先を天(そら)に向けるとそれを思い切り振り下ろし、ハルを縛り付ける蔓のようなものを切断する。
縛り上げていたものから解放されたハルは支えをなくし、サクラから離れていき落ちていく。
それを受け止めた朔夜は愛しいハルの温もりを感じとるのだった。
剣を手放し、地面に倒れこんだ朔夜はハルの身体を残った力すべてで抱きしめ、その名を何度も呼ぶ。
「朔夜」
ハルは止まることを知らない涙を頬に伝わせながら、震える手を朔夜の背に回し抱きしめ返した。
ただ温もりを求め、抱きしめあっていた。
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