プロローグ

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プロローグ

想像以上に場所が遠かった。 足代は出してくれるという話で、日曜の夜だったから余裕だと思って引き受けた。 ところが会場が盲点だった。 ーーー『警備の都合上、船の中でのパーティーになるの。一度入ったら降りちゃうと乗るのが大変だから、私達も人数を伝えてあるし。』ーーー 電話の主はそう説明してくれていた。 (真夏の船上パーティー…さすが大使館。) なんて感心していたけど、船上という話を聞いた時点で警戒するべきだった。まさかそれが動くとは考えてもいなかったし、まして下船する場所が乗った場所と違うなんて想像していなかった。 (一度帰宅して着替えてたら時間がない…昨日の洋服はある…始業前の早い時間に着くはずだし、会社の中で着替えよう!) 船から降りてタクシー代を受け取り、タクシーに乗り込んだ。 急いで会社の近くに降ろしてもらい、何食わない来訪者の体で、今から仕事だと準備している受付嬢の前を速足でスルーして、ロビー奥のお手洗いに駆け込んだ。 受付嬢が少し不思議そうな顔で見ていたのは知っている。 そうだろうなぁと思う。 会社のロビーをこんなブルーグレーのドレスを着て、金髪のロングヘアーで、目が青で高いヒールで、肩に大きめの黒い鞄を持った女性が早朝の仕事前に通り過ぎたら、それは不思議でしょうね、と個室に入り着替えを開始した。 幸い朝の出勤前という事もあり、ロビーの女子トイレは誰も利用者が居なかった。 着替えを終えて、カラーコンタクトをして眼鏡をかけて、金髪のカツラは小さめの紙袋に入れて鞄の中へ、少し天然パーマの掛かった肩下の髪を黒いゴムで後ろにひとつに縛った。 前髪を手櫛で整えて、横の落ちた髪を水色のピンで留めた。 いつもの出勤スタイルに戻ると、まだ時間に余裕もあるから大丈夫だと、お手洗いを出て、ロビーからエレベーター前に移動してエレベーターに乗り込み3階を押した。 数人の社員と挨拶をしながら、階数を聞いてボタンを押し「閉」ボタンを押した。 誰にも気付かれていないだろうと安堵していたが、まさかこの出来事があんな事になろうとは…この時は思ってもいなかった。
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