02・当日

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 人の縁を取り持つのが大好物――父の取引先の社長夫人いわく、 「いかにもホテルや料亭でお会いになるのは緊張するでしょう? だからふつうの喫茶室で、お茶でも飲みながらいかが?」  だそうだ。  会う日にちを急遽決めたものだから、場所が確保できなかっただけなんじゃないの? なんていうひねくれた思いがよぎったが、確かに、ホテルや料亭なんかよりはずっといい。  見合い場所。指定された喫茶室は、北海道神宮そばにある菓子店の二階。地下鉄円山公園駅を出てすぐのところだ。  見合い日和とは言いたくないが、呆れるくらい天気がいい。四月の札幌はまだ肌寒く、羽織るコートが必要なのに。   でも着てこなくてよかった。今日は六月中旬ぐらいまで気温があがると予報で聞いている。  約束の時間の二時まであと二十分。今の時間帯は日中で一番暑い。  はりきって訪問着にしてきた母はさぞかし暑がっているのだろうと思いきや、けろりとしていた。  母はたいそう「奥村さん」が気に入ったらしい。かわいい顔をしてるからだそうだ。  バカなんじゃないのか、この人。  そう、自分の母を鼻で笑う。  地下鉄でその母が、「奥村さん」の写真をハンドバッグから引っ張りだして目にしていた。見合いの世話好き社長夫人がよこした写真を。  意地もあり、ずっとその写真を見ようとしなかった。  でも正直、気になっていることは否めない。隙をみてちらりとだけ、「奥村さん」を拝んでやった。  写真館で撮ったものではない。本当に、ただの写真だった。現像料五百円、プリント代一枚四十円程度の、素人が撮ったようなスナップ写真。  どこにでもいそうな男だった。  どこかのオフィスのデスクに座っていて、振り向きざまをいきなり撮られたような顔の「奥村さん」。少しだけ間抜けな顔をしている「奥村さん」。  同じ二十五歳。年相応の顔は並より少し上といったところか。  それ以上の感想はなかった。もちろん「かわいい顔」だとも思わなかった。  母の好みが「かわいい顔」をした男だというのなら、なぜ母は父と一緒になったのだろう。無口で、いつもどこか不機嫌そうにしている父と。
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