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娘よりもめかしこんできた母は小さな人だ。150センチぐらいだろうか。
その人から生まれてきたくせに、こちらは165センチもある。かかとの高い靴を履いてしまうと、170センチにもなってしまう。
背が高いのは小さな頃からで、ノッポのオガと呼ばれて嫌な思いをしたこともあった。
でも今はたいして気にならない。
長身の女性なんてもう珍しくない。モデルさんみたいね、とたまに言われることもあって、それが嬉しかったりもする。
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地下鉄を出て、北海道神宮方面へ母と並んで歩く。
住宅街でありながら、それなりに人の行き交いがある。あたたかな陽差しを浴びた通りに連なるのは、ケーキショップやファーストフード店、コンビニエンスストアなど。
遠くに、大倉山があるのが目に入る。スキージャンプの競技場としても有名な。
月をそれほど越さずとも、あの山は青々とした緑に覆われていくのだろう。
目的地の六花亭が現れた。
大きな菓子店だ。二階の喫茶室のガラス窓がすでに見え、きらきらと光を照り返しているからまぶしい。六花亭と道路を挟んで向かいには、白い建物。十字架を掲げているからチャペルだろう。
いそいそと六花亭へ入っていく母に続く。
店内は広くて清潔だった。菓子売場をうろついている、上品そうな奥様たち。ガラスのディスプレイの中に、和菓子や袋菓子、折り詰めにケーキたちが、美しく並べられていた。
菓子売場を颯爽と抜けていき、母が二階への階段も上っていく。慌ててあとを追っていく。
ここにきて、いよいよ緊張におそわれた。
グッチの靴のかかとがカツカツ鳴る。階段を上るたびに。
そのたびに、心臓もさわがしく鳴っていた。
別に、相手に期待をしているわけではない。
見合いをするという行為に緊張しているだけなのだ。
心の中で唱えてやった。
(大人しくにっこり愛想よく)
(いい感じに適当に)
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