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二階の喫茶室も広々していた。質素であってもたくさんのテーブルは整然と並べられ、清潔な雰囲気だ。
真ん中のスペースを大きな生け花が彩っていた。きっと季節の花たちなのだろう。何の花かは分からない。気が張っているせいで、花を楽しむ余裕がない。
窓からそそがれる自然光で、喫茶室は明るくあたたかい。菓子の、甘い匂いが鼻にやさしい。
昼の二時という時間帯と、土曜という曜日も相まって、喫茶室は混んでいた。席はほとんど埋まっていた。年配の女性客が多かった。他は家族連れ。カップルの姿はない。
まったく、どうしてこんなところで見合いするのかと思う。先程とえらく矛盾しているが、やはり見合いは、見合いをする場所としてふさわしいところですべきではないか――と、目の前をきゃきゃっと笑いながら駆けていく子供の姿に、苦笑い。
前を歩く母が手をあげた。突として。
目をやれば、窓際の席に並んで座っている二人。
「奥村さん」だ。「奥村さん」と、世話好き社長夫人の二人。
ここからはまだ遠くてまぶしくて、向こうの顔がよく見えない。
こうこうと自然光に照らされた喫茶室。注がれた光の線の中で浮かぶ、細かな塵。空気の流れとともにそれは動く。ふわふわ揺れる。
社長夫人が母に気づくと「どうもお」と立ち上がった。派手な柄のスーツを着た夫人は、どってり太って貫禄充分。
「奥村さん」は窓の外に目をやっていた。
そして、やがてゆっくりと、その顔をこちらがわへと向けてくる。
母がずんずん進んでいくので追いかけた。
近づいて、やっと「奥村さん」の顔がはっきり分かるようになる。
困ったような表情の「奥村さん」は、目が合うと頷いてきた。
口元が少しだけ緩み、そこに浮かんでいたのはえくぼ。
日焼けしたように健康的な肌色の「奥村さん」。すずしい目元の「奥村さん」。
ふと、懐かしい感じを覚えた。
どこかで会ったことがあると。
窓の向こうに、白いチャペルが見えている。
陽の光も、チャペルの白い建物も、明るすぎてくらくらした。
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