02・当日

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 二階の喫茶室も広々していた。質素であってもたくさんのテーブルは整然と並べられ、清潔な雰囲気だ。  真ん中のスペースを大きな生け花が彩っていた。きっと季節の花たちなのだろう。何の花かは分からない。気が張っているせいで、花を楽しむ余裕がない。  窓からそそがれる自然光で、喫茶室は明るくあたたかい。菓子の、甘い匂いが鼻にやさしい。  昼の二時という時間帯と、土曜という曜日も相まって、喫茶室は混んでいた。席はほとんど埋まっていた。年配の女性客が多かった。他は家族連れ。カップルの姿はない。  まったく、どうしてこんなところで見合いするのかと思う。先程とえらく矛盾しているが、やはり見合いは、見合いをする場所としてふさわしいところですべきではないか――と、目の前をきゃきゃっと笑いながら駆けていく子供の姿に、苦笑い。  前を歩く母が手をあげた。突として。  目をやれば、窓際の席に並んで座っている二人。  「奥村さん」だ。「奥村さん」と、世話好き社長夫人の二人。  ここからはまだ遠くてまぶしくて、向こうの顔がよく見えない。  こうこうと自然光に照らされた喫茶室。注がれた光の線の中で浮かぶ、細かな塵。空気の流れとともにそれは動く。ふわふわ揺れる。  社長夫人が母に気づくと「どうもお」と立ち上がった。派手な柄のスーツを着た夫人は、どってり太って貫禄充分。  「奥村さん」は窓の外に目をやっていた。  そして、やがてゆっくりと、その顔をこちらがわへと向けてくる。  母がずんずん進んでいくので追いかけた。  近づいて、やっと「奥村さん」の顔がはっきり分かるようになる。  困ったような表情の「奥村さん」は、目が合うと頷いてきた。  口元が少しだけ緩み、そこに浮かんでいたのはえくぼ。  日焼けしたように健康的な肌色の「奥村さん」。すずしい目元の「奥村さん」。  ふと、懐かしい感じを覚えた。  どこかで会ったことがあると。  窓の向こうに、白いチャペルが見えている。  陽の光も、チャペルの白い建物も、明るすぎてくらくらした。
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