525人が本棚に入れています
本棚に追加
03・見合
窓際の四人掛けのテーブルに、きつきつになって座る。社長夫人と奥村氏の方はかなり窮屈そうだった。
着席したとたんに
「んまあーまあまあまあ。噂どおりのきれいなお嬢さんで」
とは社長夫人。
この人のスーツの柄は薔薇なのか? 赤と黒の色の取り合わせだから派手。いかにも成金そうな人。褒められているはずなのに、どうも嘘くさいと感じてしまうのはなぜだろう。
とりあえず会釈をし、真向かいの奥村氏に目をやった。
「陽子さん、こちらね? 主人の会社の広報部に勤めてる奥村高志さん。陽子さんと同じ、二十五歳。もともとは函館の生まれだそうで。本当にねえ、この人は明るくて人気があって。あ! ちゃんと真面目なんですよ? ちゃんと真面目。主人も目をかけていて――」
ぼんやりと、社長夫人の説明にうなずいた。
奥村高志。
この名前もどこかで聞いたことがある。
こう言っては失礼だが、ごく平凡な名前だからそう思うだけかもしれないが。
契約してくれたお客様だろうか。
保険に加入させる際は、きちんと説明するため一人一人に会うようにしている。数ある顧客の中の一人かもしれない。でも顔は全員覚えているので奥村氏は違うはず。
第一、この人たちの会社には営業に出向いたことがない。道内でかなり名の知れたドラッグストア「ハトヤ」には。
でも。なのに。
どこかで見たことがある。
あの、安っぽいスナップ写真を見た時は、なんとも思わなかったのに。
最初のコメントを投稿しよう!