03・見合

2/5
前へ
/315ページ
次へ
「奥村です。えーっと、まあ、どうも。はじめまして」  奥村氏が「はじめまして」を強調しつつ頭を下げてきた。  今日はよろしくお願いいたします。  陽射しがあたってまぶしそう。すっとした切れ長の目を細めている。  身につけているのはそれなりのブランドのものだろう。サイズ感ぴったりのダークグレイのスーツに、薄青のシャツ。濃紺のネクタイ。なかなかまずまずのセンス。  顔も中の上。タイプではないけれど、まあ悪くない。きちんと切り整えられたヘアスタイルも好印象。サラサラの髪質がうらやましい。  太すぎず細すぎずの体型。身長はどれくらいなのだろう。175はあって欲しい。  まあまあ。70点かな。とぼんやり評価していたら、一斉に視線が向けられているのに気づく。  隣の母に腕を突つかれた。 「んっ?」 「あんたもほらっ。挨拶。あらためてちゃんと挨拶してっ」 「あっ、あ、はいっ」  挨拶か。 「すみません失礼いたしました。小笠原陽子と申します。はじめまして。今回はお話、どうもありがとうございます」  何もありがたくはなかったが笑顔をつくる。  グッチのトートをまさぐった。いつも持ち歩いている、会社から支給された名刺を二枚取り出して手渡した。机の上からすみません、と言いながら。 「あ、どうも」 「あら、まあまあ」  奥村氏と社長夫人が受け取って、それに目を通していく。  ○生命保険相互会社・札幌職域推進課・営業室     ライフアドバイザー     小笠原 陽子     Yohko Ogasawara  あ、すみません。と奥村氏。 「俺、名刺もって来てないんですよ。すみませんほんとに」 「あー、いいんですよ奥村さん。もう、この子ったらねえ? 別に仕事の名刺なんて、こんな時に出さなくても、ねえ?」  そうだろうか。こういう席で出すのは、おかしな事なのだろうか。  
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

525人が本棚に入れています
本棚に追加