03・見合

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 当り障りのない会話が続いた。仕事の話題、趣味やよく見る映画のこと。  三十分ぐらい話したのだろうか。  この、平穏とした雰囲気に、終止符が打たれる時がやってきた。  社長夫人の一言で。 「それじゃあ私たちはこの辺でおいとましましょうか。あとは若い人たちで」  きた、と思った。  ドラマみたいにベタな展開が、本当に。  とたんに心臓がうるさくなる。  二人きりで何を話せばいいのだろう、この奥村氏と。趣味や映画のことなんて、もう話すことがない。他の話題だってそう。 「それじゃあごゆっくり。これからの事なんですけれど、ええーっとね? まあ、私を介してということで、適当に。ね? 頑張ってくださいね?」  社長夫人に「ね?」と念を押されても。何をどう頑張ればいいんだか。  オホホホホホホホ笑い合い、年配者二人が席を立つ。  立ち上がりざま、母からは「しっかりやんなさいよ」な形相。  うんざりしながら笑顔をつくる。社長夫人と奥村氏がいなかったら、思いきり睨み返してやるところなのに。 「それじゃあ奥村さん、今日はどうもありがとうございました。ほんとにねえ。また、お会いできるといいんですけど」  名残惜しそうな母に、奥村氏はただ笑ってうなずいていた。
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