04・実際

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 つりあがり気味の目は一重まぶたかと思いきや、よくよく見ると奥二重。  なかなか逸らせないのはその目に力があるせいだ。 「……っていうかあなた、俺のこと分かんないわけ? もしかして俺って気づかないで見合いしてたってわけ?」 「はあ」  訳が分からずうなずいた。  写真もちらりと見ただけだ。彼には興味がなかったし、事前の情報は聞き流していた。  呆れ顔の奥村氏が、ドカッと椅子へ戻っていく。 「……なーん。お前はよお。バカでないの? ほんとに」  バカでないの?  それにはさすがにカチンとくる。 「バカって、何なんですかねっ? さっきから好き勝手言いすぎじゃないですかっ?」 「あー、だめだ。だめだわあなた」  あのねえ?  と、再び身を乗り出された。 「俺だって俺。奥村高志。おーくーむーらーたーかーし。ほら、K小学校んとき同じクラスだったしょや。途中で俺は転校しちゃったけれどもね? 本っ当に覚えてない? あれえ? 俺そんなに存在感なかったっけか。いやあ、それはおかしいなあ。いや、かなり頭がよろしくて勉強はお出来になってたし、スポーツもお出来になってたし、かわいい顔をしてらっしゃったしで、誰の記憶にも鮮やかに、この僕がねえ? 印象に残っていると思ってたんですが。あー違うのかなあ、そうで無かったのかなあ、ほんと」  何なんだこの男。  それにこの話し口調も何なんだ。  まるでダムの水が放流されたかのよう。一気にまくしたてられて呆然としてしまう。 「……K小の。おくむら、たか、し?」 「そう。わたくし、奥村高志」  記憶をむりやり頭から引っ張り出す。むりやりに。  そうすると、真っ黒に日焼けした、やたらと元気のいい男の子が浮かんできた。  変声期をむかえていない、ハリのある大きな声が印象的な男の子。いたずらばかりしてきた、やかましい男の子。意外と勉強が得意だった気がする男の子。そして。  途中で転校していった気がする男の子。 「あーーー!! あの! チビの奥村か!」  大声をあげて奥村氏を指差した。興奮してしまう。懐かしさより驚きが先。  奥村氏がククッと笑ってつぶやいた。  いやあ、小笠原さん。 「チビは余計よ、チビは」
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