04・実際

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 奥村がだらしない姿勢でティーカップをむんずとつかみ取る。   ぬっるー! と言いつつも、紅茶を全部、飲み干している。  もう遠慮はしない。舐めるように向かいを見てやった。  ここに来てから離れなかった妙な感じ。  それは「奥村」だったからだ。  やかましく走り回っていた男の子は、スーツなんかを着て目の前にいる。ソプラノの声だってもうない。低音の、大人の男の声になってしまった。 「なにさ、じろじろ見んなよ」  少しばかり照れくさそうにしている奥村が、テーブルの端にあったメニューを手にとった。 「あー腹減った。俺ね、朝から何にも食ってないのよ」  近眼らしい。メニューを顔に近づけて文字を追っている。 「……奥村だったのか。なんかひっかかる感じはあったんだけど。でもホント分かんなかった。変わったよねえ」  そしてすっかり、いい人ぶりに騙された。ここで奴が正体を明かさなければ、ずっと分からないままだっただろう。 「でしょ? いい男になって惚れ惚れしたしょ? まー、もともと俺ちっさい時からカワユかったけど」  思わず吹きだしてしまう。 「んなこと誰も言ってない」 「あらそうですか」  奥村がすいませーんと手をあげる。遠くで待機していた若いウェイトレスを呼んだ。 「ワッフル下さい」  注文を聞いたウェイトレスがにこやかに承諾して去っていく。初々しい、清楚な雰囲気のウェイトレス。
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