04・実際

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 それにしても。  男の人がご飯がわりに甘いものを頼むなんて。  年の初めまで付き合っていた男は、甘いものが苦手だった。お酒を好み、煙草を好んだ。 「あのね、ここのワッフルうまいのよ。好きで俺、たまに食うの」  奥村が嬉しそうにメニューをたたむ。 「……なんか。女の子みたい」 「は? 男の子だってワッフルぐらい食いますよ? あんたバカ?」  しれっと返す態度に笑ってしまった。姿形は変われど、中身は小学生のままだ。口の悪いところも確か、こうだった。  けれど外見の成長ぶりが著しいので戸惑ってしまう。奥村に再会したのは、じゅう何年ぶりなのだ。 「変わってないねえ、小笠原陽子は」  相変わらずだらしなく崩した姿勢のまま、彼がこちらを見つめていた。 「……わー、ほんと? ちっさい時から変わらずカワユいところとか?」 「んー?」  奥村がククっと笑う。鼻のところを皺だらけにして。えくぼを浮かべて。 「いやいやいや、ねえ? あのー、あれだあれ。あいかわらんず」  高慢ちきそうなところかな?  と告げられた。  喫茶室は賑やかだ。それぞれのテーブルで交わされるおしゃべり。かちんと音をたてるティーカップ。  テーブルの下。先のとんがったグッチの靴で、誰かの足を蹴り飛ばしてやった。
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