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奥村が頼んだワッフルは直径二十センチほどの丸いもので、十文字にカットされていた。厚みもあるので、これを一つ食べただけでお腹いっぱいになりそうだ。
生クリームのようなものと蜂蜜が、白いプディング型の容器にいれられて隣に置かれていく。ウェイトレスが気を利かせてか、二人分のナイフとフォークに取皿も持ってきた。ウェイトレスの笑顔のように清楚な白い取皿だった。ぴかぴかに光っている取皿。
ミルクティー色のワッフルは、ふんわり見えて美味しそうだった。甘だるい匂いまでもがふわふわ漂って鼻までやってくる。ワッフルというより、パンケーキみたいだ。
奥村がナイフとフォークを手に取っている。カットされた四つのうち、一つを取皿に移していく。クリームを少しナイフですくってそのまま、パンケーキのようなワッフルに塗りつけた。
ナイフとフォークで大きくカットして、そのまま口へ。
「うまい!」
表面がサクサクしてうまいわほんと。
奥村が口をもぐもぐさせながら言う。本当に美味しそうに。
目が合うと「食う?」と尋ねられた。
「いらない」
「うん。食いたいって言ってもやらないもの」
「……」
だったら聞くな。
奥村はなおも口を動かす。ワッフルをだんだんと小さくしていく。目の前で、カチャカチャ音をたてるナイフとフォーク。
ワッフルが残り四分の一になったところで話しかけてみた。
「ねえ」
「なんだよ。いくら頼まれてもやんないよ」
だからいらないって。と苦笑する。
「あのさ、あんた見合いの相手があたしだって分かってたんでしょ? ここに来る前に、とっくに」
「うん、分かってた」
奥村は口も手も休めない。皿の上でカットしては、ワッフルを口の中。
何で見合いする気になったの? と聞くと、仕方なかったから。と返ってきた。
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