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仕方なかったから。
「だって、社長のオクサンが直々に言ってきたんだよ? この僕に。俺に。断れるわけないしょや。しがない、さあ? ヒラ社員なんだもの」
ふうん、とうなずいてみせた。
「相手がお前だって知った時は。正直、笑ったわ。いやいやいやいや、なまら笑った」
「どういう経緯であたしの事を知ったわけ?」
あーっとね、と奥村が天井をあおぐ。
「いやね? はじめ、オクサンが写真見せてきたのよ。したらアレ? って思ってさ。それで名前聞いてみたっけ、小笠原陽子って言うじゃない。びびりましたよ。うわっ! こいつ! ノッポのオガだっ! って。でも俺、知ってる人だって言わないでおいたのよ。話ややこしくなりそうでしょう?」
ノッポのオガ、だなんて懐かしい響き。小学校時代のあだ名。あの頃は、大嫌いなあだ名だった。
「写真。すぐあたしだって分かった?」
「うーん、まあそれは名前聞いて、ああそうなんですねって。でも変わってなかったもんねえ。その、インパクトのある高慢ちき、じゃねえや、高貴そうなお顔だちは」
「言い直さなくていい」
また足で小突いてやると、奥村が「いでっ」と小さく叫んだ。
あなた女じゃないよ、とぼやかれても無視をする。
「ねえ。奥さんに見せられたあたしの写真って、どんなやつだったわけ?」
「ん? 成人式の時らしい写真。写真館で撮ったようなの。君、赤い着物着てた。そんでなーまらすました顔して写ってらっしゃった。ごめん悪いけど俺、笑ってしまった」
「……」
成人式。五年も前の、例の振袖を着た写真を見たというのか。
犯人は母だ。そんな写真を外に出したのは、あの人以外にありえない。
あとで覚えてろよ。
もう、かすべの煮つけで機嫌をとろうなんてそうはいかない。
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