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だけど奥村は本当に変わったと思う。
「何度もしつこいけどさ。今の今までホント、あんただって分かんなかったわ。なんか懐かしい感じはあったんだけど。でもまっさかあんただったとは」
「ああっ? ひっでえなあ。ていうか俺も今更だけど聞いていい? 何であなたここ来るのに俺のこと知らなかったんですか? 名前とか写真とかでさあ、ちょっとはアレって思うでしょ普通」
「だってあたし、写真ほとんど見なかったし」
「は?」
「や、だって別に来たくなかったから。見合い。意地になって見なかったんだもん」
あらあ。と奥村がオバチャンみたいな声をあげる。
「でも俺の名前ば聞いて懐かしいものはあったでしょう?」
「や、名前……名前は。あんたの名字しかちゃんと聞いてなくて。フルネーム教えられた時も、あー平凡、ぐらいにしか思わなくて」
「なに平凡っ? 俺の名前が平凡ならあなただって平凡だ」
「ああまあ……そうなんだけど、ごめん。小学校ん時の子の名前なんてだいぶ忘れちゃってるし、いま思い出せたのだって、あんたが昔うるっさくて、猿みたいで目立ってたからさあ」
「猿っ? なに言っちゃってんのよあなた。このジェントルマンに向かって」
「は?」
ジェントルマン?
「いやもうまったく、ひどい人だよねえ小笠原さんは」
奥村が大げさに溜息をつく。
「俺ははじめっから知ってたから、あなたがここ来てから必死だったんですよ? 笑いばこらえるの」
すでにワッフルはなくなっていた。変わらずにぴかぴか光っている白い皿に、細かいカスだけが散らばっていた。
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