04・実際

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 外側の、のどやかな光景から目を逸らす。  奥村と向き合った。 「ねえどうする」 「うん?」 「あたしとあんたの事だよ。さっきの奥さんに言わなきゃなんないんでしょうが、これからの事」 「えー、どうするって俺やだよ。やですよ。あなたなんかと付き合って結婚なんて」 「あのね! それはこっちの台詞っ」 「あっ、そうかい?」  奥村が口を大きくあけて笑った。 「話は決まったね。素晴らしく早いわ。ほんじゃ『この話はなかったことで』って俺からオクサンに言っときますのでご心配なく、小笠原陽子さん」 「や、あたしのほうから言っとくから」 「は?」 「だって、あんたに言われたんだったら、あたしが振られたみたいでしょうよ」 「うわ、小笠原さんってプライドたっか~」  まあいいや。お前がそうしたいならそうしてよ。  奥村がククっと笑ったところで、再び外が賑やかになった。  色とりどりの花びらが舞っている。それにまみれた新郎新婦。真っ白なウェディングドレスに、黒いタキシード。しっかりと腕を組んで、くすぐったそうに微笑む二人。  フラワーシャワーと拍手がやまない。光の中のあたたかな光景。  しばらくすると花嫁は、淡い花が束ねられたブーケを空に放り投げた。弧を描いて落下していくブーケ。群がる女性たち。  (ああ、キレイね花嫁さん)  喫茶室でくつろぐ客たちも、チャペルを窓越しに眺めている。  穏やかに時間は過ぎていく。 「いいもんだあ、ねえ」  しみじみ囁く奥村の台詞に、ただこくんとうなずいた。 「……ほんとだよね」  「頑張りましょうなーお互い。早くああなるように」  頑張りましょうな、と言ってくるくらいだ。付き合っている人はいないのだろう。こんな風に見合い話を受けるくらいだから間違いない。  そう確信して尋ねてみた。 「あのさあ。奥村って彼女いない歴どれくらい?」 「うるさいよお前黙ってな」  ふてくされた顔で奥村が腕を組む。 「あなただってねえ。見合いにのこのこ来るくらいだからどうせ寂しい女なんだよ。実際そうなんでしょう? 小笠原くん」  むかついた。 「頼まれて仕方なく、来たんだもん」  言い返したが、確かにその通りだと思って冷めた紅茶を飲んでみる。やっぱり苦い。しばらく舌に渋みが残りそうだ。  カップをソーサーに戻して向かいを覗く。  窓からの陽射しが顔にぶつかって、奥村はまぶしそうに目を細めていた。
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