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05・帰路
ロイズのチョコがいっちゃん好きなんだけど、やっぱちょっと高いんだよな。
と奥村がつぶやいた。誰ともなしに。
喫茶室からそろって一階へおりると、奴が菓子売場で物色をはじめようとしてしまう。ひとりで勝手に。
仕方なくあとを追っていく。
並ぶと、身長差がほとんどない。一番かかとの高いパンプスを履いてきてしまったせいもある。グッチのピンヒール。
「小笠原、お前って」
相変わらず背ぇ高くないですか?
奥村が言った。
あらためて人のことを眺めてくる。てっぺんからつま先へ、見定めるようにしてじろじろと。
「あなたってばそんな、ほっせぇ、たっけえ靴なんか履いてきやがって。そんな靴履いてたらいつか足ば捻って、すってんころりんしてまうぞ? お前なんかズック履いときゃいいんだよ、ぺったんこのズック。もうねデカい女は僕のそばに来ないでくれません? シッシッ」
くっついて歩くなと手を払われる。
むかついたのでわざと近くに寄ってやったら、はたと思い出す。いま着ている薄桃色のワンピースが、ずっとクローゼットに居座っていたものだということを。防虫剤の匂いを。
ねぇあたし、におってない?
そう尋ねると、奥村はきょとんとした。
「なにお前ワキガなの?」
「――違いますっ!」
・
一階の菓子売場は客がまばらだった。二時前にここへ来た時とは大違い。
一つ一つ包装された菓子がずらり。有名で美味しいお菓子たち。ショーケースの中、詰め合わせの箱菓子は千円から五千円ほどだった。
一番好きなのはマルセイバターサンドだ。レーズンが入ったクリームを、厚いクッキーでサンドした菓子。
むしょうに甘い。だけどやみつきになる。バターサンドは特に人気があって、駅のキヨスクではすぐ売れてしまうらしい。でもここにはまだ残っていた。
奥村は並べられている板チョコレイトを二枚手に取って会計へ行った。その際に見えた包み紙はモカ色。素朴な、花の手描きのイラスト。
チョコレイトをジャケットの胸ポケットに押し込みながら、奥村が戻ってくる。
一緒に六花亭をあとにした。
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