05・帰路

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 行きよりも、帰りの今のほうがあっという間に感じた。円山公園駅の長い地下通路を抜けるのが。    改札前まで来てしまった。  土曜のせいだろうか。円山公園。北海道神宮。大倉山展望台。周辺を巡ってきたらしい観光客だろうか。切符販売機前は賑やかだった。    まず奥村がスラックスから小さな財布を取り出した。いい感じでくたびれた財布はこげ茶色。 「あ、やべちがった。なにやってんのよ俺、定期持ってんのに」  結局、奴は切符を買わなかった。だけどこちらは定期がないので買うしかない。お金を入れて、ボタンを押して、すとんと落ちてきた切符を拾う。  聞くと、奥村は琴似に住んでいるという。こちらは札幌駅方面。ということは方向が違う。通る改札も別。  じゃあここでサヨウナラ。という時になって二人、何となしに立ち止まる。  大通・新さっぽろ方面のりば。  琴似・宮の沢方面のりば。  方向別に向かいあう改札前のスペースで。  奴と目が合って、意味もなく笑ってしまう。  ここにきて急に照れくさくなってしまった。  向こうもはにかんでいる。どこかのポケットから出した定期入れで、鼻の先をちょんちょん突っついて。定期入れも同じく、こげ茶色のくたびれたような革。  手が、大きい。ごつごつと骨っぽい。
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