05・帰路

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「あ、そうそう」  奥村が口をひらく。若干とってつけたように。 「俺さ、しょっちゅう山本と会ってたりするんだよ、これが」 「えっ! ほんとっ?」 「ほんと」  思いがけない報告に、少し興奮してしまう。 「ね、山本くん元気っ? 相変わらずカッコイイ? いまなにしてんのっ?」  まくしたてると、奥村は苦笑い。  あー、はいはい分かったから落ちつきな。 「山本はねえ、元気。いまも札幌にいるよ。営業マン。多分ね、あなた普通に美化してカッコイイあれば想像してると思うけど、それ、まったくその通りでいいよ。裏切ることなくいい男。よかったな小笠原」 「……へぇ、すごい。そっ、かあ」  山本学はどんな風に成長したのだろう。どんな二十五歳になったのか。  顔を思い返してみる。小学生の頃の彼の。  だがはっきりと浮かばない。あんなに好きだったのに。  家に帰ったら卒業アルバムを久しぶりに開いてみようか。けれどあれには、途中で転校した奥村は載ってないけれど。  ゆるめたネクタイに、ふたつはずしたワイシャツのボタン。いまでもスーツを着くずしている男。  まあこんな男でも、仕事は真面目にこなしているのだろう。多分。  思い起こしてみる。喫茶室での、年配者ふたりがいなくなる前までの好青年ぶりを。奴の好演ぶりを。  吹き出してしまった。 「ん?」  なんで笑ったの。と言いたげな顔のあと、奥村が口をひらいた。  じゃあな。 「じゃあ、もう会えるか分かんないけどー。元気でな? オクサンによろしく断わっといて? でも、ひどいこと言わないでおいてちょうだいよ」  笑ったままでうなずいた。  ひどいことって、どう言えばひどいんだか。 (もう会えるか分かんないけど)  少し寂しいけれど、多分そうなのだろう。  見合いをきっかけに奥村と会えたけれど、付き合うことにはならなかった。  奴に会えて、まあよかったと思っている。今日は人生の中でまったくといって重要な日ではないのだろう。  でもいい日だった。  結構楽しかった。
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