05・帰路

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「したらバイバイねー小笠原」  自動改札機に定期を入れて、奥村がさっさと入ってしまった。琴似・宮の沢方面の改札へ。    こちらのほうも、反対がわの改札へ入ってしまおうと思う。大通・新さっぽろ方面の改札へ。  少し、名残惜しい気もするけれど。  改札をパスした奥村が、行こうとしてふっと振り返ってくる。両手をスラックスのポケットに突っ込んで。胸ポケットで悪目立ちしているモカの板チョコレイトの包み紙。 「言い忘れ! 小笠原はかわい……綺麗になったと思う! かなり!」  大声で告げられて焦る。  改札前にいた数名から突きささる視線。顔が赤くなっていくのが分かる。それは注目されているから、というだけではなかった。  改札の向こう。奥村はニヤリと笑うと、こう付け足してきた。 「相変わらず高慢ちきだけどーぉ」  黙れバカ! と言い返してから最後に見えた横顔は、やっぱり笑っていた。ホームへ向かう奥村の背中が小さくなり、あっという間に消えていく。  今度はもう、こちらを振り返ることもなかった。
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