06・目撃

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 ヘアカタログを買って本屋から出ると、すっかり暗くなっていた。  五月の夜はまだ肌寒い。少しでも和らげようと、はずしていたジャケットのボタンをすべて留めていく。  自宅マンションは駅裏がわにある。札幌駅北口方面に。  未開発地域で、南側と比べると見劣りする。駅と繋がったパセオというファッションビルが登場して、最近になって人の流れが少し北側にも向いてきた。近代的なオフィスビルが建ち、テナントが入ってきた。  それでもやはり札幌の顔は南側の大通であり、時計台であり、すすきのだったりするのだろう。  駅北口から外へ出ると、静かな夜を感じた。街灯の明かりはビルに遮られて物足りない。靴のかかとの音が響く。  ここから歩いて十分ほどで自宅マンションに着く。  夜のおかずはなんだろう。父が帰宅していたとしたら、すぐに食事になるだろう。腕時計に目をやるともう八時近い。  家族そろって夕食をとる習慣は、変わらずに続いている。  付き合っていた人がいた頃はしょっちゅう、遅くなるから夕飯はいらないと連絡をいれたものだ。  親には恋人がいることをいちいち報告しなかった。けれど今思うと、この連絡が合図のようなものだった。 『遅くなるから夕飯はいらない』  そんな連絡をいれることも久しくない。最近は毎日しっかり家族そろっての夕食だ。たぶん食卓には今日も、父の好きなキムチが置かれているのだろう。  よく利用するコンビニエンスストアから煌々と明かりがもれている。すっかり暮れてしまった夜に、青い看板がやたらと目立つ。  近くで、黒い車が停まった。  運転席のドアがひらき、スーツ姿の男性が颯爽と出てくる。コンビニに入ろうとして。  よく見ると車はホンダのシビック。助手席には女の子。暗いから顔はよく分からないけれど髪の長い女の子。路子のように髪の長い。  コンビニの前を過ぎ、シビックも追い越してしまった時だった。  突然鳴り出したのは携帯電話の着信音。  何度も聞いたメロディは、間違いなく自分あて。  
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