06・目撃

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 ドアを開くと同時にふわりと、おいしそうな匂い。おでんはもうないはずなのにどうしてだろう。和風だしの匂い。コンビニに入ると、だいたい決まってこんな匂いがする。 「いらっしゃいませ、こんばんは!」  買い物かごを掴むなり、元気な店員の声がして驚く。横で雑誌の整頓をしていた店員は、初めて見る男の子だった。よくこの店を利用するから分かる。新入りに違いない。    くすぐったい気持ちになってうなずいて、惣菜コーナーへ急ぐ。  二百円で売られているパック入りの朝鮮漬けは、三つあった。  三つとも手に取ってかごに入れる。父の大好きなキムチを。  そうだ。ビールも頼まれていた。  買わないとな、と方向転換した時だった。  右横を、ダークグレイのスーツがすっとすれ違う。男性だった。  その買い物かごには赤ワイン。さらにお菓子かいくつか。  その中で目についたのはチョコレイトのアソート袋だった。  赤ワインにチョコレイト。  その組み合わせもまあアリだよねと三歩、靴をならしたところで立ち止まる。  あれ? と思って振り返る。  向こうもそう。  あれ? という顔で振り返ってきた。  また今日も、今夜も、ゆるめてしまっているネクタイ。ワイシャツのボタンも上からふたつ外してしまってだらしない。  せっかく身体に合ったデザインの、仕立てのいいスーツを着ているのに。  ぽかんと見つめ合った時間はごくわずか。  沈黙は向こうによって破られた。 「ヨーコオガサワラじゃん」  ヨーコオガサワラ。 「……その呼び方、やめてくれません? 奥村高志」 「あらまあそれはすみません」  ニッと笑った奥村の口の端で、やっぱりえくぼが浮かんでいた。
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