06・目撃

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「偶然でございますね。なに小笠原、いま仕事帰り?」 「奥村も?」 「あー、まあ」 「あれ? あんたんちって琴似じゃなかったっけ? なんでこんなとこいるの? ぜんぜん方向違うでしょうが」 「……んまあ。ちょっと、野暮用」 「ふうん?」  含みをもった笑みを見せられて、つい首を傾げてしまったが、まあいい。 「最近、どう? 調子のほうは?」と尋ねると、奥村の返事はこうだった。 「ぼちぼち」  ぼちぼち。  路子と同じ返答だ。 「小笠原は夜メシの買い出しかい?」   と、買い物かごをのぞき見される。  とたんにクッと笑われた。 「うわお前、キムチまとめ買いかい!」 「あ、これは」 「それでメシ食うの? や、違うね。それつまみにこれから一杯やるんでしょ。いやいやいやいや渋いねえ。ああでもなんかイメージに合うわあ。さすがだわあ」 「違う違う! これはね? 家の人に頼まれて!」 「ホントかあ? なんかねえ小笠原って、酒がめちゃめちゃ好きそうなイメージなのよ。外でも家でも飲んだくれてそうなイメージ。して、日本酒一升瓶、そのまんま口つけて豪快に飲んでそう。おい酒が足りねえぞ! オルァ! もっと酒持ってこいやオルァ! ってやってそう」  ねえそうなんでしょ? 小笠原。  言うだけ言って、うっひゃっひゃ! と手を叩いて笑い出した奥村へ、かごの中のキムチをぶん投げてやりたい衝動にかられて、やめる。  視界の隅に、人の気配があったからだ。  いつの間にかレジの中には先ほどの元気店員がいたから。見られているような気がしたから。  いまだにうひゃうひゃ笑っている奥村の腕をばちんと叩く。  いてっ! と叫びながら、奴は腕を押さえた。 「やだもう叩かないでくれません? あなたの力でだと僕、骨折しちゃうでしょう? 治療費出してくれんの?」  何をほざいてんだか。  そんなに痛くなさそうなくせして。  本当に腹が立つ。  その言いぐさも。人をバカにしてくるのも。 「――アホくさ」  奴を無視してビールが納められている冷蔵庫まで向かう。    苛立ったまま乱暴にドアを開ければ、冷気がぶつかってきてゾクリ。それでも缶ビールを三本かごに入れた。サッポロビアグランデ。父が最近、好んでよく飲むピールだ。  入れてしまってからハッとする。酒の話題でからかわれたばかりなのに、タイミング悪くビールなんかを手に取ってしまった。絶対、後ろにいるあいつに何か言われてしまう。  睨みながら振り返る。  けれど奴の姿はなかったので拍子抜けする。弁当やサンドウィッチや惣菜が、整然と並んであるだけだった。いやに明るいコンビニ内の風景がそこにあるだけ。缶ビールをさわったばかりの手が冷たい。  いるとうるさいけれど、いないと逆に気になってしまう。  和風だしみたいな匂いがするコンビニの中を歩き、奥村を探し始めた。  雑誌コーナーには立ち読みしている客がひとり。週刊マンガのページをめくっている。  奥村は目立たないところにいた。  おくむら。  と言いかけて口をつぐむ。  というのも、奴がいたのはコンドームの置かれてあるコーナーだったから。そばには下着や靴下、ストッキング。  靴下か下着を買うのかと思いきや、奥村が手にしたのはよりにもよってコンドーム。やたらと派手なパッケージ。それを、買い物かごの中へポトリ。  呆気にとられて固まっていたところで、奥村がふっと振り返る。  目が合った。 「うおっ」  小さく叫ぶと同時、奴はビクリと体を震わせていた。
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