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見合いの相手は「奥村さん」という。
父の取引先の社長夫人でそういった世話が大好きな人がいるらしい。今回の話はその人が持ってきたらしい。ついでに明日、「奥村さん」の親代わりとしてその人も同席をするそうだ。
父ははじめ、話を断ったとのことだった。
けれど幾度も強く勧められ、断り続けるのが立場的に難しくなったのだ。
「相手が気に入らなかったらそれはそれでいい。父さんは何も、早く嫁に行けと言ってるわけじゃない」
見合い話を切り出してきた時、父はめずらしく表情を曇らせていた。申し訳がなさそうに。
その時も、父はビールを飲んでいたように思う。いつも通りキムチをおつまみに。
付き合いでしょうがなくて頼むよ、なんて言い訳じみたものは父の口からいっさい出なかった。けれど。
「何も。早く、嫁に行けと言っているわけじゃあない」
この台詞だけは何度も聞かされた。
からっぽになって泡だけがついたグラスを、父がテーブルに置いた時。
分かった、と静かに承諾していた。「奥村さん」と見合いすることを。
「そうか」
そして父はうなずいて、グラスに何杯目かのビールを注いでいた。そしてキムチもひときれ口の中。
黙々と口を動かしながら父は、どういう思いでいたのだろう。
父が何を考えているのか分からない。
母には嫌な娘でいられるくせに、父にはいつも、何も言えない。
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