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一発の銃声──。
つづく悲鳴が瞬間的に轟き空間を切り裂いたのは、扉が閉じたのとさほど時間差なく起きた一瞬の出来事だった。
ローザはすぐさま振り返り、たったいま出たばかりの部屋の、ぴったり閉じたドアのノブに手をかけた。とほぼ同時に、なんらかの非常事態であることを察して、ずっと廊下の端で二階フロアを監視していた見張りのミュゼも、即座に反応し走ってきた。
「ドラクール」
ローザは個室のなかに唯一いるはずの人物の名を呼んだ。その唯一の出入り口である外開き扉のノブを掴み手前に引こうとしたが、内側からこたえる気配はまったくなく、ドアも動かない。
「どうした、ドラクール。開けられないのか」
室内からは依然なんの応答もなく、呼びかけにローザが発した言葉の最後の部分は半ば、入れ替わりドアを開こうと試みているミュゼに投げかけられていた。左手でぶこつな鉄扉を激しく何度も叩きつつ、もう片方の右手でノブを回す。
しかしドアは開かない。すでに完全に施錠されているようだった。
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