『いきなりの死亡宣告』

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『いきなりの死亡宣告』

「あと5分であなたは死ぬのよ」  悟は目の前に突然現れた赤色のワンピースを着た少女にそう言われた。  少女は15歳ぐらいに見える。その少女は自分の体の何倍もの大きさがある巨大な鋏を携えていた。 「いきなり何を……」 「だからあと5分で死ぬんだって」 「何を言っているかさっぱり――」 「そうこう言っている間に1分たったけどね。あと4分」 「助かる方法はないの!?」 「ないわね」 「っていうか、俺が何で死ぬの!」  少女は無関心そうに笑う。興味がないのだろう。 「そういう運命だから? あと3分」 「これは夢なんだよね。そうなんだよね……?」 「そう思ってもらっても結構だけど。まあ、どっちみちこっちには関係ないし」 「そうこれは夢……夢なんだ」  少女は気だるそうに鋏を振り回し始めた。 「うーん、5分待つのめんどくさいから、もう切っていい?」 「えっ?」 「今月はノルマがギリギリなんだよねー。次々に狩っていかないと」  悟は全く話しについて行けていない。  少女は死神であり、人間を地獄に送らないといけない。しかも月ごとにノルマがあり、この少女はそのノルマを全然達成できていないのだ。  悟はまだ夢だと思っているが、これは現実である。突然死とかたまに起こるが、大概はこういうことである。 「ちょっと待って! これは夢なんだから、好きなことをしても大丈夫なはず!」  少女が何かを言う前に、悟は行動していた。なんと彼はいきなり少女に抱きついたのだ。少女は突然のことに身動きが出来ずにいた。 「タイプです! 女の子とキスをしたこともありません! だから――」  悟は少女の唇に自分の唇を重ねようとした。少女はいきなりのことに、まだ反応できずにいた。  悟は――死神にキスをした。口づけのような軽いものだが、悟は大いに満足したようで、人生に一片の悔いもないような軽やかな笑顔である。  少女は何をされたか理解できず、反応がない。無表情のままで、整った顔立ちということもあり、まるで人形のように固まっている。だがふと我にかえったのか、徐々に赤面していく。  彼女にとっても初めての出来事だったのだ。まさか死ぬ5分前の人間にキスをされることは。彼女がこれまで100人以上の人間を切ってきたが、いきなり抱きつき、キスをする人間は経験がなかった。  彼女にとっても初めてのキスだったのだ。 「な、なな、――なにするのよ!」  死神は反射的に――鋏で悟をはさみ――そのまま切ってしまった。 「あっ」 「あっ」  どちらとも同じ声を発してしまうほど、あっさりとした出来事だった。悟の体は上半身と下半身で真っ二つになった。断面からは光が溢れ、悟の体を包んでいく。光が悟の体を全て包み、光の消滅と共に悟の体は光の粒となっていた。光の粒が宙に飛んでいく。  少女は飛んでいく光の粒を見ながら、唇にそっと指先で触れ、ひとりごちる。 「ファーストキス……」  少女は悟が立っていた場所に目をおろした。そこには悟の生徒手帳が残されていた。  それを拾い、ペラペラとめくっていく。顔写真つきで名前が書いてあるページを見つけ、そこに目を留める死神少女。 「粟井(あわい)悟か……」  生徒手帳をそっと閉じ、ワンピースのポケットに入れる。 「覚えておこうっと」  死神の少女はそう言って消えた  その後の少女の行方はまた別の話……。                                 (完)  
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