テスト

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テスト

(あと5分だ)  定期テストの最中、教室の掛け時計を見た僕はひどく焦っていた。  今受けている歴史のテストは「12:05」が終了時刻であり、現在時計の長針は「12」を指して正午を迎えたところだった。  人物名を答える問題を何度も読み返し、確かに覚えていたはずの揺らめいた記憶をなんとか引っ張りだそうとしていた。 (北条……なんだっけな?)  元という国の要求を断ったかっけー奴の名前である。当然知っているはずだ。問題集でもこれと似た問題が出てきたはずだ。だのにあと一歩で浮かびそうな歯がゆい感覚は数秒経ってもてんで消えなかった。  時計を見た際、試験監督の中村先生が見えたが、本来の義務を果たしもせずにぐーすか眠りこけていた。現代文の先生だが、講釈垂れた口ぶりが生徒たちの不評を買い、忌み嫌われいた。授業中、先生が投げかけた問題を生徒が答えられなかった場合、その生徒をひどく罵り、馬鹿にして、勝手に笑いものに仕立て上げた。  無論、そんなことで笑う生徒はクラスに誰一人としていなかった。つまり、笑いものというのはその先生だけの発散するための「道具」に過ぎなかった。  そういえば、昨日クラスメートの織崎からなにか電話で言われたが、徹夜して気だるさと眠さが体にどっしりと乗っかており、あまつさえ頭痛も起こり、それも歴史も思い出すのが苦でならなかった。  織崎はクラスの中でも優秀な生徒であり、話しかけられるたびになにかと劣等感を抱いた。だから返事だけして聞き流すこともよくあり、まさしく昨日の電話もそうだった。「お前ってほんと真面目だな」  彼が僕に言う口癖だった。  こう言われても僕は全く嬉しくなかった。むしろ馬鹿にしているのではないかと素直に受け止めることさえできていなかった。  なぜなら勉強してもいっこうに点が伸びない僕からすれば結果主義の学歴社会のなかで真面目なんかよりも彼の頭脳のほうが有能だったからだ。僕は彼が(うらや)ましくて仕方がなかった。妬みの領域を超越したジェラシーがさらなる劣等感を高次なものへと(いざな)った。
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